約 3,105,657 件
https://w.atwiki.jp/natural-prince/pages/218.html
BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【25】 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【25】 1-100 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【25】 101-200 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【25】 201-300 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【25】 301-400 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【25】 401-500 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【25】 501-600 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【25】 601-700 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【25】 701-800 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【25】 801-900 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【25】 901-1000 入り口に戻る
https://w.atwiki.jp/natural-prince/pages/220.html
BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【27】 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【27】 1-100 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【27】 101-200 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【27】 201-300 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【27】 301-400 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【27】 401-500 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【27】 501-600 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【27】 601-700 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【27】 701-800 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【27】 801-900 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【27】 901-1000 入り口に戻る
https://w.atwiki.jp/natural-prince/pages/222.html
BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【29】 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【29】 1-100 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【29】 101-200 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【29】 201-300 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【29】 301-400 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【29】 401-500 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【29】 501-600 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【29】 601-700 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【29】 701-800 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【29】 801-900 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【29】 901-1000 入り口に戻る
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2433.html
ティアナ、アンタの『誤射』の件もアリウス氏は穏便に済ませてくれるそうや」 ホテル<アグスタ>の襲撃事件から既に丸二日が経とうとしていたが、ティアナが部隊長室に呼ばれたのはこれが初めてのことだった。 ティアナが民間人を――しかも管理局にも尋常ではないほどの影響力を持った人物を撃った事実は、既にはやての元へ報告されたが処罰は先送りされていた。 あまりに予想外の事がこの一件で起こりすぎていた為だった。 謎の襲撃事件が多くの資産家を巻き込んだことで事件は一気に深刻化し、その最中でこれまでの記録でも一線を画す<アンノウン>が出現。Bランク魔導師二人を戦闘不能にした。 加えて一般警備員に死者と、空戦AAA+魔導師のヴィータ三等空尉が重傷を負い、機動六課スターズ分隊は実質壊滅寸前にまで追い込まれた――。 事件としても一大事であり、現場に当たった機動六課にとっては部隊の存続すら揺るがす状況だった。 そして現在、ヴィータ三等空尉の容態も安定し、危うい方向へ傾いていた天秤が元に戻り始めている。 傷が回復したばかりのティアナと上司のなのはが今更ながらに呼び出された背景はそれだ。 直立不動で総部隊長の言葉を待つ二人を、はやては普段の気安さを潜めた厳格な表情で一瞥する。 「……まあ、実際。当時現場には得体の知れん化け物が徘徊しとったわけやし、脱出を急いで無断で外に出た非も向こうは認めとる。混戦の中で誤射も止むを得ず……」 「誤射ではありません。自分は明確な意思と認識を持って撃ちました」 はやての説明を遮り、ティアナがハッキリと告げた。 傍らのなのはがティアナに制止の視線を送るが、それを分かっているのかいないのか、前だけを見据え続ける。 沈黙が走り、二人の視線が交差し合った。 「……実際、直後に強力な<アンノウン>が出現し、スターズ分隊はこれと交戦することでアリウス氏も無事……」 「敵が出現したのは撃った後です。それに、アレの出現は偶然ではありません。アリウスの仕業です。6年前の事件でも奴は……」 「ランスター二等陸士」 どこか呆れを含んだ声色ではやてが吐き捨て、静かな視線を向けると、その気だるい仕草からは想像も出来ないような圧力を感じてティアナは思わず黙り込んだ。 「少し黙れ」 ティアナと、なのはさえも僅かに息を呑んだ。はやての傍らに立つグリフィスだけが銅像のように一貫した態度と沈黙を貫いている。 今、この瞬間二人の前に立つのは間違いなく機動六課総部隊長八神はやてであり、たった四年で二等陸佐まで上り詰めた実績を持つ冷徹冷静な上司だった。 「ランスター二等陸士の話が全て本当だったとして――で、それが何や?」 はやては現実の厳しさを突きつけるように問う。 「その生態すら僅かにも知れない正体不明の敵との繋がりがアリウス氏にあるとして、それを証明する術は? そもそもそれを暴く権限が一介の管理局員にあると思うんか?」 「……ウロボロス社からの圧力があったんですか?」 「あったとして、だからそれが何なんや? 状況証拠も無しに民間人を、管理局員が自らの意思で撃った事態が明らかになって、その責任を自分一人で負い切れると思っとるんか。自惚れるな」 「はやてちゃん、もう少し言い方が……」 「高町一等空尉。私語は控えろ」 「……はっ」 気まずさを通り越して、軋んだ空気が部隊長室に漂い始める。 ティアナの事務的な態度に隠れた挑発的な言動に対して、はやてはあくまで厳格な上司として応じ、その狭間でなのはは沈黙するしかない。 親友とはいえ、互いに管理局で仕事に就く中でその関係が馴れ合いだけで成り立っているわけではないことをなのはも十分理解していた。 「……ティアナ、何故撃った?」 ほんの少し険の取れた声で、はやては純粋な疑問を口にした。 「私の経歴は、既に調べられていると思いますが」 「6年前の事件のことか。なら言い方を変えるけど――何故撃てた? 後先考えない復讐心だけで撃てるほど、アンタの心構えは脆いものなんか?」 ティアナは沈黙を貫いた。 実際に教導を行い、接しているなのはほどではないが、スターズ分隊のメンバーとしてティアナを選んだのははやてだ。 ティアナには正義に向かう意志が確かにあった。はやてはそれを直接眼で見ている。 単なる復讐者として生きるのならば、管理局に入る必要などない。 ティアナは人を守る生き方を選んだ。 その尊い事実が、どれほど暴走してもティアナの根底に残っていることを察したはやては、だからこそ彼女を庇うのだ。 一向に答えようとしないティアナの様子に、この問題は自分が解決するものではないと悟ると、何処か寂しげに眼を伏せてはやてはため息混じりに結論を告げた。 「……今回の件は『誤射』で片をつける。これは決定や。従え」 「……はい」 「処罰は追って知らせる。減俸か、誤射及び緊張状態でのトリガーミスに対する矯正訓練の徹底は覚悟せえ。謹慎させるほど暇も人手も余ってないんでな」 「分かりました」 「よし、下がれ」 敬礼し、ティアナは退室した。その態度と仕草だけは従順で完璧な対応だった。しかし、内心がどうなっているかは全く予想できない。 はやては憂鬱なため息を吐き、更にもう一つ目の前にぶら下がる悩みの種に視線を向けた。 「っちゅーわけで、今回の『事故』の責任は上司であるなのは隊長が主に負うことになる。……本当によかったんか? ティアナに教えんで」 「うん。ティアナには、気にして欲しくないから」 「独断行動の抑制と立場の自覚の為にも釘刺した方がええんやけどな。 あまり今回のティアナの行動を楽観的に解釈せん方がええよ。そら、何か事情はあるやろ。でも事情があれば何でもしてええというワケやない」 「……そうだね」 覇気の感じられないなのはの受け答えに、はやては更に頭を悩ませるしかなかった。 ティアナの暴走の報告を聞いて、一番ショックを受けているのはなのはだ。おそらく、彼女が最も想定していなかった事態だからだろう。 普段のティアナを考えれば、何らかの重大な事情があるのは確かだ。それを分かってやれなかったことで、なのはは自分を責めている。 はやてが親友として知る、なのはの欠点だった。 何もかも自分だけで抱えようとする。そして、他人ではなく自分を戒める優しさも。 「……なのはちゃん、ティアナはこれまで教えてきた子らとは違うよ」 はやては友人としての優しさと厳しさを持って告げた。 「優しく接すれば応えてくれる相手やない。 ティアナのいろいろなことに対する覚悟は相当なもんや。あの娘には漠然とした正義に従うだけやない、明確な意志がある」 それは、見慣れたものだからこそ分かるものだった。 なのはやフェイト、そしてはやて自身にも宿る、幾つもの大きな戦いと経験で失ったモノから受け継いできた<魂>だ。 経験の薄いルーキー達の中に在って、ティアナはそれを既に持ち得ていた。 そこに至る経緯に何があったのか。 少なくとも、出会って半年も経たない仲で理解できるほど容易いものではないと、なのは自身も理解していた。 自分の親友二人が背負うものを、この10年来の付き合いの中でも完全に理解しきれないのと同じように。 「曲げられない意志を持つ相手に、言葉だけで通じなければどうすればええか……なのはちゃんは知ってると思うけどな」 「……もう、子供の頃とは違うよ」 「そうか? 『たいせつなこと』は今も昔も変わらんもんや。人が理解し合うのに、気持ちをぶつけるのは必要やと思うけどな」 「……」 「一度、思いっきりぶつかった方がスッキリするんと違う? 模擬戦でも組んで」 ティアナの場合を再現するように、実感の篭ったはやての言葉に対して黙り込むなのは。 スターズ分隊は予想以上の問題を抱えているらしい。 憂鬱なため息の絶えない部隊長だった。 「まあ、その辺はベテランの教導官殿に任せるけどな。素人の意見や……下がってええよ」 「……失礼します」 一礼し、なのはも部隊長室を去って行った。 二人の居なくなった室内。閉ざされたドアの先をぼんやりと眺めるはやてと、これまで微動だにしていないグリフィスだけが残される。 「……あーもー! なぁーにぃーこぉーれぇー!?」 緊迫した空気から解放され、タガが外れたようにはやては頭を抱えてデスクに倒れ込んだ。 「二回! 出撃したの、これでたったの二回やで!? なのにもう問題が山積みや! 布団と違うんやから、なんでこう叩けば叩くほど埃出てくるかなぁ。うちの部隊ってそんなに問題あった?」 今にも床でのた打ち回りそうなほど苦悩全開なはやての傍らで、グリフィスは淡々とコーヒーの準備をし始めた。 「あんなギスギスフィーリング、私のキャラやないのに……。少数精鋭ってもっとアレやん、身軽に飛び回ってクールでスタイリッシュに事件を解決っていうイメージやろ? 何で一回動くごとにエンスト起こしとんねん」 ダラダラと文句を垂れ流す中、コポコポとお湯を注ぐ音だけがはやてに応える。 はやてはのんびりとしたグリフィスの仕草を恨めしげに睨み付けた。 「……ちょっと、グリフィス君! 聞いとる!?」 「ミルク入れますか?」 「砂糖もたっぷり入れて!」 「では、コーヒーブレイクです。落ち着きますよ」 本職のウェイター顔負けの流れるような動きでコーヒーカップを差し出し、グリフィスはスマイルを浮かべて見せた。 あっさりと毒気を抜かれたはやては、その笑顔を卑怯だと心の中でぼやく。 なんだか自分のあしらい方を十分に心得られているような気がしてならない。 拗ねたアヒル口で、コーヒーを啜る音だけがしばし部隊長室を支配する。 「……実際、機動六課自体にそう問題はないと思います。外的要因がほとんどかと」 カップの半分も中身を飲み終えたところで、計ったかのようにグリフィスが言葉を口にした。 「外因って?」 「例の<アンノウン>ですね。いずれの出撃も、アレらの乱入によって事態が悪化しています」 「……まあ、確かにティアナの問題にしてもアレが関わっとるみたいやしね」 はやてはカップを置くと、デスクの端末を操作して、つい先ほどまで調べていたファイルを表示した。 6年前の――ティアナの兄<ティーダ=ランスター>の殉職に関わる事件のファイルだった。 違法魔導師の追跡を行っていたティーダは、その最中で謎の襲撃を受け、部隊の仲間共々死んでいる。 映像も無く、事件自体の詳細な記録も不自然なほど欠けているが、その内容はこれまでの襲撃事件と酷似していた。 そして、彼の追っていた違法魔導師がアリウスである。 この『偶然』の襲撃によってアリウスは追跡から逃れ、そのしばらく後に冤罪が確定。 無実の罪で捕らわれる過ちは寸前で防がれ、当時の捜査チームは誤認逮捕の責を問われた。追跡した部隊は強引な行動を批判されこそすれ、死を悼まれることもなかった。 「現場責任者のティーダ一等空尉は露骨に『無能』『役立たず』と非難されたそうや。襲撃の痕跡も見当たらず、妄言扱いまでされかかっとったようやな」 その当時の批判には二重の意味が込められていることを二人は察していた。 免罪の者を追い回した強攻的な姿勢を責める世論に乗った糾弾。そして、それとは全く正反対に、逮捕にまでこぎつけた大物を現場から逃がし、根回しの機会を与えてしまったという管理局側の本音だった。 ――例え、死んでも取り押さえるべきだった。 事件に関わった高官達は、そう断言して憚らない。いずれもアリウスの強大な権力の前に返り討ちを受けた者達だった。 「ティアナにはああ言ったけど、アリウスが限りなく黒なのは当時の事件でも周囲が認めとる」 「やりきれない話です」 「これならティアナも思うところあるやろ。ただ、漠然とした<仇>の正体を随分とはっきり断定しとるところが解せんがな」 「彼女は<アンノウン>の正体を知っている、と?」 「で、その辺の鍵になってくるのがこの人――」 モニターが変化し、表示されたのはダンテだった。 「訓練校に入る前からティアナと知り合いやったそうや。 現場でも相手の正体を察するような言動あったらしいし、<アンノウン>の謎に対しては彼が重要な鍵を持っとるやろうな」 「しかし、彼から得た情報では……」 「それなんや」 続いて表示されたものは、ダンテから事情聴取によって得た情報だった。 物的証拠などほとんどなく、それらは全て<アンノウン>に対するダンテの独自の説明だけで成り立っていた。 「2000年前に一人の<魔剣士>によって封印された<魔界>と、そこから人間の世界へ現れ出る<悪魔>――か」 「正気を疑いますね。 彼自身の経歴も不鮮明なものです。戸籍は金で買ったらしい後付のものですし、現在の彼自身廃棄都市街で非合法の便利屋を請け負っています」 「といっても、あのにーちゃんから一番出難いタイプの妄言やと思うけどね」 「それは、そうですが……」 ダンテと一度でも直接顔を合わせた者ならば共通して抱く感想だった。 美しさとしなやかさを備えた容貌の中で浮かぶ不敵な笑み。何者にも従わない意志を宿した瞳は、真っ直ぐに迷い無く前を見据えている。 態度や立ち振る舞いの粗野さは、むしろ彼の一種独特な雰囲気を実に人間臭いものへと変えて、初対面の者の警戒を自然と解いてしまうのだ。 彼には生まれや身分など関係ない、存在そのものから発せられる強烈な力があった。 あの男から、思慮の浅い嘘や半宗教染みた妄想など飛び出してくる筈が無い――そう無意識に弁護してしまいそうな雰囲気がある。 そしてこれもまた根拠もなく無意識にだが、ダンテの語った内容は奇妙な説得力を感じさせるものだった。 「そうか、なるほど<悪魔>か……」 口の中でその言葉を反芻し、はやては思わず納得するように頷いていた。 自分も何度か無意識に比喩したが、確かにあの大きさも形も一定ではない奇怪な化け物どもを表現するのに、これ以上相応しいものは無いように思えた。 今回の事件で確信したことだが、奴らは場所にも時間にも縛られない。 あるいは塵からででも生まれているのではないか? そう思わずにはいられないほど、奴らは唐突に人間の前に現れ、等しく死を振り撒いてきた。 もし、今回襲撃されたのがホテルではなく管理局の施設だったら? あるいは本部であったなら? 軍隊では死ぬのにも順番がある。まず尖兵が戦いで死に、敵が進軍していくことで徐々に前線に立つ偉い者から死んでいく。そして最後は一番偉い奴が責任を取る。 しかし、この<悪魔>どもにとっては違うのだ。 全てが平等で、奴らの前では人間とは等しく獲物に過ぎない。 寝静まった夜、管理局の最高責任者の家のベッドの下から這い出してきて、あっさりとその命を奪ってしまいかねない存在なのだ。 子供が皆一度は暗闇の中で幻視して怯える、モンスター、悪霊――そう、そして<悪魔>と呼ばれる者達がまさにそれではないのか。 「……どうなさいますか? この情報」 「どうって、まさか六課の皆に正式な情報として公表するわけにもいかんやろ。敵は<悪魔>です、聖水と祈りを武器に戦いましょうって? ただ根拠や論理的な説明はないにせよ、ダンテさんがこの<悪魔>に対して有効な知識と力を持ってるのは確かや。正式に協力を取り付けて、情報は隊長陣にだけ報告。あとは状況の進行から見定めていくしかないな」 「事件担当の執務官に、一応この情報は送っておきます」 「相手にされんと思うけどね」 呟き、しかし直接ダンテから話を聞いたらどうだろうか? というとり止めもないことを考えていた。 もう一度、ダンテの証言に目を通す。 「<悪魔>……<魔界>……」 得られた情報の中でもキーワードとなりそうなものを一つ一つ、染み込ませるように口にしていく。 「<魔剣士>……そして<スパーダ>か」 魔法少女リリカルなのはStylish 第十五話『Soul』 「へい、お待ち! 機動六課食堂特製の特大ミックスピザだよ!」 「Wao! 待ってたぜ、こいつは美味そうだ!」 恰幅の良い、いかにも『食堂のおばちゃん』である女性が、本場イタリアも真っ青なピザを目の前に置くと、ダンテは歓声を上げた。 特製と言うだけだけあって、本来メニューに載っていないその代物はダンテの注文を全て座布団程もある大きな生地の上に載せている。 香ばしい匂いと共にチーズが音を立てて溶け続け、ダンテと同じテーブルを囲む者達の空腹感まで大いに刺激した。 彼の盛り上がりようも、決して大げさではない。 「事情聴取だの何だので、丸一日ロクに食ってないからな。こういうのを待ってたんだよ」 何かと微妙な立場にある身では隊舎をうろつくことも出来ず、気を利かせたフェイトが持ってきたカロリーブロック以外口にしていない。 ダンテは祖国の伝統ある栄養の偏った塊に嬉々として齧り付いた。 「ん~、いいね。最高だ」 「おいしそう……」 「スバルさん、涎出てますよ」 「キャ、キャロだって、食べたそうな顔してるじゃん!」 「あの、すみません。少しキャロに分けていただけますか?」 「エリオ君、恥ずかしいことしないでっ!」 食欲を誘うダンテの食事風景を見ているのは、同じテーブルのスバル達だった。 いずれもダンテからすれば子供も同然。三人の歳相応な様子に機嫌の良さも手伝って笑みが浮かぶ。 「ハハッ、いいぜ。遠慮するなよ、この幸せは皆で分け合わなきゃな」 「じゃあ、いただきまーす!」 誰よりも早くスバルが文字通り食い付いた。続いて、礼儀を弁えたエリオとキャロの年少組がおずおずと手を伸ばす。 「すみません、いただきます」 『キュルー』 「あ、うん。フリードのもあるよ」 奇妙な拮抗状態にあったテーブルは途端に賑やかになった。 自分の腹を満たしながらも、その和気藹々とした団欒の様子にダンテは穏やかな笑みを浮かべてしまう。 何処か懐かしい光景が、そこにはあった。 二切れ目のピザを炭酸飲料で飲み流すと、ようやく一心地ついたダンテは自分の傍らに浮く小さな人影を見上げる。 「ヘイ、お前さんは食べないのか?」 「……生憎ですが、リインはこんな油の塊好きじゃないです」 愛らしい顔を険悪に歪める行為が全く無駄に終わっているリインフォースⅡは、精一杯不機嫌を露わにしてダンテに吐き捨てた。 初対面から二日と経たずに、リインのダンテへの印象は最悪になってしまっている。 その理由は、この冗談を無意識に吐き続ける皮肉屋が絵本の妖精のようなリインを見てどんな態度を取るか考えれば容易に説明出来た。 「ああ、そうかい。妖精はピザなんて食わないよな。花の蜜とか砂糖菓子とか集めて食うんだろ?」 「リインは虫じゃないですー!」 つまりは、こういう態度だった。 「だったら、食ってみろって。ダイエットだの健康だのって考えが吹っ飛ぶぜ」 「むぅ……じゃあちょっとだけ」 トマトのスライスとチーズだけが乗った小さな切れ端を渡すと、リインは渋々齧り付いた。 ビヨーンと伸びるチーズの旨味と初めての食感に、カッと小さな目が見開かれる。 「こっ、これはああ~~~っ! この味わあぁ~っ、サッパリとしたチーズにトマトのジューシー部分がからみつくうまさですぅ! チーズがトマトを! トマトがチーズを引き立てるッ! 『ハーモニー』っていうんですかあ~、『味の調和』っていうんですかあ~っ。 例えるならサイモンとガーファンクルのデュエット! 田村ゆかりに対する水樹奈々! 都築真紀の原作に対する長谷川光司の『リリなのStS THE COMICS』!……っていう感じですよー!」 「……美味いって言いたいのか?」 「まいうーですよー!」 言葉の意味はよく分からないが、とにかく気に入ったらしい。 テーブルに腰を降ろして本格的に食べ始めるリインの様子を『まるでハムスターだな』と思い、幸いにも口にするのをダンテは自重した。 この小動物の分のピザを残して食事を終えたダンテは、ようやく一息つく。 窮屈な襟元を無意識に緩めた。 「ふう、それにしても制服姿ってのは窮屈だな。性に合わないぜ」 「そうですか? 似合ってますよ、機動六課の制服」 「いい男だからな」 そう言ってウィンクするダンテの仕草に、スバルは数年前に見た姿と同じものを感じ取って苦笑した。 着の身着のまま機動六課まで同行したダンテは、あの貴族服以外に持っておらず、未だ正式な立場も決まっていない身の為、目立たないように制服を着るよう言い渡されていた。 「でも、やっぱり目立ちますね」 エリオもまた実感を持って苦笑するしかなかった。 ダンテがリインを除くこの場の全員と面識があることは偶然だが、三人が共通して彼との初対面を印象強く覚えていたことは一致している。 必然だった。ダンテには整った容姿以上に、その存在を相手に刻み込むような特有の雰囲気があるのだ。 普通の人間の中に在って、目を惹き付けずにはいられない。一種のアイドル性のようなものだった。 それは服装程度で雑多な中に埋もれるような弱いものではない。 「いい男だからな」 それを自覚しているのかいないのか、ダンテは悪戯っぽく笑って繰り返した。 「でも、驚きましたよ。トニーさ……じゃなくて、本当はダンテさんか。わたし達三人と皆会ったことがあったんですね」 「ボクは、ダンテさんが魔導師だったことが驚きです。ミュージシャンの人だと思ってました」 「魔導師っていうほど学は無いがね。それに、ロックが好きなのも本当さ。聴いたことあるか?」 「あ、ボクは……その、音楽とかよく分からなくて」 「そいつはマズイな。見たところ坊やにはワイルドさが足りない、今度俺の世界の名曲を聞かせてやるよ」 「ダンテさんは、やっぱり別の次元世界の人なんですか?」 「次元漂流者って言うのか? 詳しくは知らなくてね。……オイ、いつまでも睨むなよ。まだ、あの時のこと根に持ってんのか?」 『グルルル……』 「あ、コラ! フリード! ごめんなさい……」 「いいさ、小動物にはあまり好かれない性質なんだ」 「むっ、今リインのことも含めませんでしたか?」 腰を据えて三人とダンテが向かい合ったのはこれが始めてだったが、会話は弾むように進んでいく。 子供特有の素直さは、彼の気安い雰囲気と相性がいいようだった。 「……あの、ダンテさん」 「うん?」 やがて会話がひと段落着いた時、不意に言葉数の少なくなったスバルが物言いたげダンテの様子を伺った。 ダンテは持ち前の勘の良さで、その『言いたい事』を察した。 この二日間、偶然のそれとは別に楽しみにしていた少女との再会が、未だ果たされていないのも気になっている。 「ティアの、ことなんですけど」 スバルは全くダンテの思っていた通りの名前を口にした。 そして、そのまま息を呑んだ。 僅かに見開いたスバルの視線を追って振り返れば、食堂の入り口を横切るティアナの姿がある。彼女はこちらを一瞥もしなかった。 「ティア!」 スバルがすぐさま駆け寄り、同時にダンテが立ち上がる。 その声にティアナは今気付いたとばかりに顔を向け、まるで義務のように足を止めた。 「ティア……やっぱり、部隊長に怒られた?」 スバルはティアナが部隊長室に呼ばれた理由を正確に理解している。 それでいて『処罰』や『修正』といった表現を使わないのは、ただ単に彼女の子供っぽい一面のせいだった。 そののんびりとした表現が、ほんの少しだけティアナの固まった心を解す。 自然と小さな笑みが浮かび、ただそれだけでスバルは安堵を感じた。 「そりゃあね。ま、何とか穏便に済みそうだけど」 「そっか。よかった」 「よくないわよ、二度と繰り返さないようにしなくちゃ。……スバル。あたし、これからちょっと一人で練習してくるから」 「自主練? わたしも付き合うよっ」 「あ、じゃあボクも」 「わたしも」 口々に告げる仲間達のそれが自分への気遣いだと分かり、ティアナは苦笑しながら首を振る。 「あれだけの激戦だったんだから、休むように言われてるでしょ? 二人とも体力面ではどうしても体格的に劣るんだから、十分休みなさい」 こんな時でも冷静なティアナらしい理屈でエリオとキャロに言い含めると、何処か不安げなスバルの顔を見た。 現場でティアナの隠された一面を垣間見たからこそ感じる不安だ。 「スバルも……悪いけど、一人でやりたいから」 「あ……」 しかし、ティアナの静かな拒絶の前にスバルはそれ以上何も言うことが出来なかった。 悲観的過ぎるかもしれないが、言う資格が無いとすら思っていた。 あの時、戦場で気を失い、次に目を覚ました時には怪我を負ったパートナーが隣で寝ていた。 何よりも自分の無力を痛感した瞬間だった。あの負い目が、ずっと足を引いている。 「……うん」 スバルは、そう力無く言葉を受け入れるしかなかった。 三人を置いて、立ち去ろうとするティアナ。 しかしその先に、見慣れた長身が立ち塞がる。 「――ヘイ、お嬢さん。何処かで会ったことないか?」 ナンパの芝居染みた台詞と仕草で、ダンテは彼なりに久しぶりの再会を喜んだ。 彼の冗談に対して肩を竦めるだけのリアクションを返すと、ティアナはそのまま無視して通り過ぎようとする。 「無視するなよ、傷付くぜ」 もちろん、ダンテにとっては手馴れたやりとりだった。 ティアナの行く先を片腕で遮ると、そのまま手を壁につけて、肩幅の広い体全体で壁と挟み込むように追い詰める。 周囲のスバル達の方が動揺するほど顔を近づけて見慣れた碧眼を覗き込むと、ダンテは恋人にそうするように囁いた。 「感動の再会っていうらしいぜ、こういうの」 「……らしいわね」 「本当に冷たいな、オイ。飛びついて来ることも考えて、胸は空けといたんだぜ?」 「悪いけど――」 誤解以外何物も生まない体勢にも関わらず、ティアナは軽口を聞き流して努めて冷静にダンテの腕を退けると、そこから抜け出した。 「立場上、気安く馴れ合えないから」 退けられた手を手持ち無沙汰にブラブラさせるダンテを一瞥して、ティアナは去って行った。 二人のやりとりについ先ほどまで騒いでいたスバル達も声を潜め、気まずげに残されたダンテを見上げている。 ダンテは、ティアナの触れた腕から伝わる違和感を感じていた。 別に彼女の手が震えていたわけでもない。だが、ダンテは文字通り肌でティアナの拒絶とそれ以外の何かの意志を感じ取っていた。 「……ヤバイな」 「ヤバイですか?」 いつの間にか、肩に降り立ったリインだけがダンテの呟きを聞く。 「ああ、ヤバイ……」 ダンテは自分でも理由の分からないその結論を、確信付けるようにもう一度呟いた。 やがて時は過ぎ、日が暮れる。 ティアナが隊舎近くの林で自主訓練を始めてから、既に4時間が経過していた。 ずっと同じ光景が繰り返されている。 直立不動のままの姿勢を維持するティアナ。その周囲を複数のターゲットスフィアが浮遊している。そして、その間を誘導魔力弾が忙しなく飛び回っていた。 クロスファイアシュートを意識した三つの魔力弾は、ターゲットを捉えながら渡り歩くようにティアナの周囲を飛び続けた。 しかし、時間の経過と共に体力と集中力は消耗し、魔力弾の誘導ミスも増え始めている。 それでも訓練を止めようとしないティアナの意識をあえて逸らすように、手を叩く音が聞こえた。 「4時間も魔力行使を続けられるパワー配分は大したモンだが、いい加減本当に倒れるぞ」 「……ヴァイス陸曹」 訪れた意外な人物に集中力は途切れ、片隅に追いやっていた疲労感が襲ってくるのを感じて、ティアナは恨めしげにヴァイスを睨んだ。 「ヘリから覗いてたんですか?」 「……あらら、気付いてたのかよ」 あっさりと言い当てられ、ヴァイスは末恐ろしいとばかりに内心青褪めた。 そんな様子を一瞥して、ティアナは何でもないように言い捨てる。 「ただのカマかけです。ヘリポート、ここから見えますし」 「……あっそう」 本当に恐ろしいね。突きつけられた答えに、ヴァイスは逆に顔を引き攣らせるしかなかった。 やはり、この少女は一筋縄ではいかないらしい。 先輩風を吹かせるつもりなど毛頭無かったが、何を思ってこの鉄壁少女に助言などしようとしたのか。ヴァイスは自らの無謀を悔いた。 しかし。ええい、かまうもんかとその場に居直る。 夜空の下、一人黙々と訓練を続ける少女の姿をどうしても見捨てて置けないのだった。 「しかし、お前さんにしちゃあ意外な訓練だな。ターゲットトレーニングの応用か」 本来は周囲を動くターゲットに対して、正確なフォームで素早く銃口を合わせることで、命中精度を高める訓練である。 射撃スキルの優れたティアナに適した訓練であり、だからこそ、それを誘導弾で行うことで弾道操作能力を向上させようという今のやり方には疑問が感じられた。 「お前さんの魔力弾の特性なら、命中精度の方を重視するべきだと思うんだがな」 ようやく助言らしきものを言えたヴァイスの安堵の表情を一瞥すると、ティアナはおもむろにガンホルダーからクロスミラージュを抜き出した。 周囲のターゲットが新しい配置へと変化する。ヴァイスは思わずティアナを凝視した。 次の瞬間、銃火を伴わない銃撃が始まった。 ステップを踏むように軽やかに足を動かし、ティアナの体がターゲットの間を舞う。 両手で左右別々の標的を正確に捉え、命中判定を示す音と瞬きが終わる前に、クロスミラージュの銃口は既に次の標的に向けて動いていた。 型に嵌らない滅茶苦茶なフォームだが、とにかく正確で速い。ターゲットの反応が連鎖するように次々と起こり、さながら電飾のように派手に光を散らした。 全てのターゲットを丁寧にも二回ずつ補足し、それらを僅か十数秒の間に終了させると、息一つ乱さないティアナは元の姿勢に戻っていた。 もはや、ヴァイスは気まずげに笑うしかない。 他に何か言うことは? 挑発的な視線と笑みを肩越しに向けると、ティアナはデバイスを手の中で一回転させて、ホルスターに滑り込ませた。 「……分かった、分かったよ。俺がでしゃばりだった。もう好きにしな」 ヴァイスは降参とばかりに両手を挙げる。 「でもな、そんだけ出来るお前さんなら分かってるはずだろ? 無理な詰め込みで成果が上がるもんじゃねえんだ」 「……すみません。焦ってるもので」 ようやく返ってきたティアナのまともな返答に、ヴァイスは意外そうな表情を浮かべた。 「おい、自覚してんなら……」 「でも――分かってても、止められない気持ちってありますから」 その言葉に、心臓を鷲掴みされたような気分になった。 頭では分かってるのに心では受け入れられない――そんな状態が、自分にとって実に身近なものだと、つい先日分かったことではないか。 「今夜は、何も考えられないくらい疲れないと、眠れそうに無いんです」 「……なあ、あのダンテの旦那に会いに行った方がいいんじゃねえか?」 ここまで来て結局他人に丸投げするしかない自分の不甲斐なさを呪いながら、ヴァイスは告げた。 一変して、ティアナの呆れたようなため息が返ってくる。 「食堂での一件まで見てたんですか?」 「あの旦那は何かと目立つからなぁ。焦ってる時ほど、聞きたい人の声ってのがあるもんだ。お前の場合、それがあの人なんじゃねえか?」 ダンテはもちろん、ティアナのこともよく知るワケではない。二人の間に気安く踏み込むつもりもなかった。 ただ、この一見冷静に見えるからこそ隠された危うさを持つ少女の心を動かせるのは、あの男しかいないと直感していた。 「……そうかもしれません」 ティアナの声から僅かに張りが失われた。 「これまで、何度も道を誤ろうとした自分を助けてくれたのは彼でした。 今も、訓練校でもいろいろ教わったけど、彼の傍に居た時が一番恵まれていた。焦りなんて当然のように感じなくて、強くなってく実感があった」 「だったら」 「でも、だからこそダメなんです」 強い語調が、それまでの穏やかな憧憬を断ち切る。 「これまでずっとそうだった。でも、これからもずっとそのままでいるということは、甘えのような気がしてならないんです。それに――」 自らを戒める程の厳しさを取り戻したティアナは、ヴァイスに背を向け、虚空を睨み据えながら決意を口にする。 「もう、彼からは十分たいせつなことを教わった。自分だけが持つ力の存在を信じさせてくれた。 その力が在ることを証明出来なかったのはあたしの不足――。 焦りかもしれませんが、自分の無力を突き付けられて、それでも余裕を持っていられるほどあたしは冷静じゃありません。ありたくありません」 頑なほどの断言を聞き、ヴァイスは今度こそ自分の言葉が無力であることを悟った。 お節介程度の気持ちで動かせるほどティアナの意志は軽くはなく、察せるほど浅くはない。 ヴァイスもかつては前線に立つ兵士であった。人は、愚かしいと理解していても戦場でただ前に突き進むしかない時があるのだ。 その覚悟の是非を、他人が決めることは出来ない。 ただ願うしかないのだ。自らが担いだモノの重みを苦と思わず、背負い歩き続けるこの少女の行く先に幸があることを。 「分かった、もう邪魔はしねえよ。でもな、お前らは体が資本なんだ。体調には気を使えよ」 根付いていた腰を上げ、ヴァイスは諦めたように踵を返した。 「……ヴァイス陸曹、どうしてあたしをそこまで気に掛けてくれるんですか?」 「お前のファンだからさ」 冗談とも本気ともつかない言葉を残し、ヴァイスはその場を去っていった。 ティアナはそれを見送ると、再び訓練を再開した。 すぐ傍の木陰から、一つの人影が同じように歩き去ったことを全く気付かぬまま。 幾つもの想定外の事態が重なって複雑怪奇になりつつあった報告書がようやく纏まり、夜も遅く隊舎の廊下を自室に向けて歩いていたなのはは、その行く先に見知った顔を見つけた。 「ダンテさん」 「ナノハか」 壁に背を預け、窓から外を見下ろしたままダンテは軽く手を上げた。 ダンテの視線の先を、なのはは自然と追い、そして夜の暗闇の中で瞬く魔力の光を見つけた。 「あれは……」 なのはの声に誰かを案ずるような色が混じった。 その誰かとは、もちろん視線の先で自分を追い込むように延々とトレーニングを続けるティアナに他ならない。 「今日は休むように言ったのに、一体何時から……」 「少なくとも一時間は続けてるな」 それは暗にダンテが一時間前からこの場にいたことを示していたが、なのははそれに気付くよりもティアナを見下ろすダンテの表情に心配の色が無いことに怒りを覚えた。 二人の関係がどんなものか、ある程度察することしか出来ない。 ただそれでも、ダンテがあの頑なな少女にとって自分よりもずっと心を許せる相手であることは何故か確信していた。 「見ていたなら、どうして止めなかったんですか?」 「思うところがあってね。アイツには好きにさせてやりたいのさ」 肩を竦めるダンテの返答はどこまでも素っ気無い。 しかし、彼が『思うところ』となった原因が何処にあるか――例えば数時間前にティアナを探して出歩いていた時の事を、なのはは知らなかった。 「でも、あんな無茶をしていたら……」 「まあ、アイツはよく自分を追い込むからな」 「分かってるのなら止めてください。アナタの言葉なら、ティアナもきっと聞き入れます」 責めるようななのはの視線を受け流し、ダンテは苦笑した。 「かもな。でも、だからこそ無責任なことを言いたくないのさ」 「無責任って……」 「ティアが暴走した話と原因は聞いたよ。俺にアイツを諭す資格なんて無いね」 自嘲の色が滲むダンテの笑みを見て、なのはは自分の迂闊な言葉を悔いて口を噤むしかなかった。 彼の言葉にどんな意味と過去が込められているのか、今は知る由も無い。 ―――そしてダンテにとって、それはまさに口を出す資格すらない話だった。 敬愛する実の兄を殺し、その魂と名誉を地に堕とした仇。それを前にして敗れ、地を這い、噛み締めた口の中に広がるのは土と屈辱の味――。 何処かで聞いた話だ。身に染みるほどに。 冷静になれ。復讐心など忘れて、前向きに生きるんだ――そんな戯言を、自分の事を棚に上げてどの口でほざけというのだ? かつて隠れて震えることしか出来なかった脆弱な自分を思い出す度に、今も鮮明に蘇る感情を知っているのに。 「俺の母親も<悪魔>に殺されてね。今のティアの気持ちは痛いほど分かる」 「ダンテさん……」 ティアナと自分、一体どう違うと言うのか。 人の命を玩ぶ<悪魔>は許せない。だが、奴らを狩る理由に暗い復讐心と、その断末魔を聞く度に少しずつ薄れるかつて母を失った時の無念が在ることも否定出来ないのだ。 互いが持つ危うさを、ダンテはその天性の力で薄れさせているに過ぎない。 違いがあるとすれば、性格と少しばかりの人生経験の積み重ねくらいのものなのだ。ダンテはそう思っていた。 「……でも、だからこそ今なんだ。ティアが変わるのに、今が一番最適なんだよ」 自嘲の笑みを全く種類の違う穏やかなものに変えて、ダンテはなのはを見た。 何かの期待を含むその視線を受け切れず、なのはは言葉を探してもごもごと迷うように口篭る。 「アイツは捻くれてるからな。人間関係でいろいろと心配してたんだぜ?」 「ティアナは、よくやってくれてますよ。仲間からも信頼されてます」 「ああ、会ったよ。いい仲間だ。そこが俺とは決定的に違う」 まるで自分には本当に仲間と呼べる者などいない、と言うような孤独を感じさせる独白だった。 あれほど他人に気安い態度を見せる目の前の男は、何か致命的な差異を他人との間から感じている。 なのはは何も言えず、ただ黙ってダンテを見つめた。 「だから、変われるんだ。ティアは俺とは違う生き方が出来る」 「……ティアナは、きっとダンテさんを尊敬してますよ」 「オイオイ、俺を赤面させるなよ。恥ずかしいだろ。まあ、嬉しいけどな。 だが、俺はアイツが俺と同じ生き方をすることなんて絶対に望まない。そんな不幸は願い下げだね。見た目よりもずっとキツいんだ」 ダンテはそう言って小さく笑った。普段のそれとは違う、見る者が痛みを感じる笑みだった。 「……でも、正直わたしはどう接したらいいのか分からないんです」 なのはは縋るような視線を向けた。ダンテの期待が、今はただ重い。 ティアナの間違いを諭せるほど自分も自分の正しさを信じていないのだと、今更ながらに痛感した。 人を想うのに、こんな苦しい気持ちは初めてだった。 あるいは10年前には経験したことがあるのかもしれない。でも、もうその時出した答えさえ忘れてしまっている。 「難しいことなんてないさ。ただ、アイツに人間として接してくれればいいんだ」 ダンテは不安げななのはの肩に手を置き、ポンポンと気軽に叩いた。 「アイツが何かしでかして、痛い目を見たとしても――それもいいさ。 感情を昂らせて流す涙は、他人を想う心を持つ人間の特権だ。<悪魔>は泣かない。人間だけが出来る。それが、ティアには必要なんだ……」 静かな実感を持った言葉を残し、ダンテはゆっくりとなのはの横を通り過ぎて行った。 その意味深げな言葉の真意を、なのはは半分も理解出来ない。ただ漠然と、ダンテが自分の背中を押したことだけは理解出来た。 そして同時に、彼が<人間>という言葉に自分自身を含まなかったということも。 謎の多い彼の正体に、その理由は隠されているのかもしれない。 なのはは振り返り、何か言葉を掛けようとして、しかし結局その背中を見送ることしか出来なかった。 酷く孤独で、悲しい背中だった。 「ティア、四時だよ。起きて」 繰り返される目覚ましのアラームとスバルの声が徐々に頭の中に入ってきて、それが覚醒を促した。 酷く活動の鈍い思考で、ティアナはまず疑問に思った。一日の始まりにしてはリズムがおかしい。 それが普段より早く起きた為だと気付くと、同時に早朝四時から自主錬の為にそうしたのだとも思い出した。 「ああ、ゴメン。起きた」 ティアナはそう言ったつもりだったが、実際は死者が目を覚ましたかのような呻き声だった。 本来は起床時間を体に刻み込んで時計にも頼らないが、前日の疲労に加えて睡眠不足が完全に足を引っ張っていた。 「練習行けそう?」 「……行く」 ティアナは不屈の闘志で立ち上がった。 事実、疲れ果てた肉体の欲求を押さえ込むのは戦闘のそれに等しい精神力が必要とされた。 トレーニングウェアを差し出すスバルの行為を疑問にも思わず、受け取ってノロノロと着替え始める。 昨夜、自らの発言どおりに使い果たした体力と精神力の影響か、普段のティアナが持つ凛とした仕草は欠片も無く、動きも緩慢で精彩さを欠いている。 それはそれで隙の無いパートナーの貴重な一面が見れた、と奇妙な喜びを感じながらスバルは自分の服に手を掛けた。 ようやく脳が回り始める中、隣で同じように着替えるスバルの行動にティアナは我に返る。 「って、なんでアンタまで?」 「一人より二人の方がいろんな練習が出来るしね。わたしも付き合う」 「いいわよ、平気だから。あたしに付き合ってたら、まともに休めないわよ」 「知ってるでしょ? わたし、日常行動だけなら4、5日寝なくても大丈夫だって」 それは全く事実であり、ティアナがスバルを羨む数少ない部分だった。 一時期は、その天性の優れた体力を妬んだこともある。自分に絶対的に足りないもので、そしてどう努力しても限界を感じてしまうものだからだ。 今、その時の感情が僅かに蘇っていた。 「……同情?」 眠気は吹き飛び、静かな激情が言葉に表れて険を見せていた。 しかし、スバルも慣れたもので、怯みもせずに笑みを浮かべて見せる。 「わたしとティアは、コンビなんだから。一緒にがんばるのっ」 一片の疑いも抱かない本音だった。 「……ねえ、スバル。あの戦闘の時、アンタが射線のすぐ傍にいること――あたし、知ってて撃ったわよ」 「うん、分かってる」 能面のような無表情で告げる真実を、スバルはやはり当然のように受け止める。 ティアナは目の前の少女が時折理解出来なくなる瞬間があった。今がまさにその瞬間である。 「悔しかったよ。あの時、ティアにとってわたしは邪魔でしかなかったんだよね」 スバルは自分の想いを確認するように頷いた。 「うん、悔しい。普段からずっとティアに頼りっぱなしだったけど、本当に必要な時に何も出来なかった自分が情けなくて仕方ないんだ」 「スバル……」 「だから、強くなりたい。ティアのパートナーとして、二人でちゃんと戦えるように。 その為にこの練習が必要だと思ったから、わたしは一緒に行くんだよ。お願い、一緒に練習させて」 最後は頼み込むことまでして見せたスバルの行為に、ティアナは無言で混乱するしかなかった。 本当に、彼女の考えは理解出来ない。 「アンタの、そういう……」 「ティア?」 「……いいわ。勝手にしなさい」 「うんっ!」 二人は練習の場へと向かって行った。互いに違う想いを胸に。 ヴィータが医務室のベッドで目を覚ましたのは、更に数日後のことだった。 怪我の影響とは違う全身を覆う酷い倦怠感を堪えながら、埃を被っていたかのように動きの鈍い頭を回転させる。 傍らで微笑むシャマルを見て、ああ自分は助かったのだとヴィータは実感した。 「ヴィータちゃん、気分はどう?」 覚醒後しばらくは呆けているだけだったヴィータを勝手にあれこれと診察した後、シャマルは尋ねた。 「だるい。頭がぼーっとする」 「ずっと寝てたからね。胃も空っぽだから、すぐに食欲も戻ってくるわよ」 「なんでこんなに寝てたんだ?」 実際の時間経過は長くとも、ヴィータにとって意識を失う直前の記憶は鮮明に残っていた。 腹を貫通した鋼鉄の冷たささえ思い出せる。 上着を捲って傷の場所を見てみるが、そこだけが数日分の時間の流れを表すように治癒されていた。包帯すら巻かれていない。 恐る恐るお腹を撫でて確認すると、ようやく気持ちが落ち着いてきた。 「睡眠薬を使って、強制的に休んでもらってたのよ。ヴィータちゃん、安静にしてって言っても聞かないから」 「傷が塞がったんなら寝てる意味もねーだろ? やることなんて山ほどあるんだからよ」 「確かに、その日のうちに傷は塞いだけど、思った以上にダメージは大きかったのよ。外科的な手術までして、本当にようやく塞いだだけ」 「そうそう、シャマル先生ってば本当にすごかったんですよ!」 点滴を取り外す作業をしていた医療スタッフの一人が、興奮気味に割って入った。 「あの日はスターズFも含めて三人の負傷者が一気に運び込まれましたからね。 治癒魔法にも限界があるし、何より副隊長の傷は深すぎて、魔法による強引な再生だけじゃ体に負担が掛かりすぎる状態だったんですよ。脊椎までやられてて。 そこで、急遽、外科手術による治療も取り入れたんです。 魔法と外科手術を同時に進行させて。あの負傷がこの数日で後遺症も無く完治できたのはあの的確で素早い処置のおかげなんです。 いやー、あの時のシャマル先生はまさにプロって感じでしたよ! もうまさに『シャマル先生にヨロシク』って感じでしたね!!」 「そ、そうかい。説明ありがとよ」 ファンがアイドルについて語るような熱い視線と言葉を浴びせられたヴィータは、やや気圧されながらも引き攣った笑みを浮かべた。 その例外なく優れた容姿と能力のせいか、ヴォルケンリッターは管理局内で、特に若手の局員において人気が高い。支持者と言うよりもファンと称すべき者達が多数存在した。 とにかく、分かりやすい活躍が注目される戦闘担当のシグナムとヴィータは特に知名度が高かった。ザフィーラでさえ獣形態と幻の人間形態に分かれてファンが多い。 その中で、後方支援担当のシャマルは知名度こそ低いものだが、その分コアな人気と濃いファン層を所持していた。 特に彼らは、ヴィータ達のような能力や立場に憧れるのではなく、純粋にシャマルと言う人物像を崇める者が多い。 シャマルの城である医療室勤務の者達こそがまさにそれであり、目の前の若いスタッフも例外ではないようだった。 「……ま、とにかくそういうわけ。どんなに魔法が便利でも、人間の体には流れがあって、それに逆らうことはどうしても無理をすることだわ」 熱気冷めやらぬそのスタッフに別の用事を与えて退室させると、シャマルはヴィータに微笑んで諭した。 自ら戦いに臨むヴォルケンリッター達を抑える、こうした重要な役割もシャマルが担っている。 「必要な分だけ休ませる。これは、はやてちゃんからの命令でもあったの」 なのはちゃんの時の事、覚えてるでしょ? そのシャマルの言葉には、ヴィータも神妙に頷くしかない。 「確かに、体調は万全みたいだけどよ。……ありがとな」 「いえいえ」 自身の状態まで冷静に把握出来るほど意識の覚醒したヴィータは、シャマルの言葉の正しさと優しさを受け止めて、素直に礼を言った。 しかし、ふと訝しげな顔になって首を捻る。 「何? 動きの違和感なら、長い睡眠でまだ感覚が戻ってないからで……」 「いや、そうじゃなくてよ。いくら重傷って言っても、治るまでにちょっと時間掛かりすぎじゃねーかなと思って。あたしら、普通の人間とは違うんだぜ?」 ヴィータの何気ない呟きに、シャマルは沈黙した。 彼女の疑念が、治療の最中でシャマル自身が抱いていたものと全く合致するからであった。 ヴォルケンリッターを構成するものは、完全な肉体と生ではなく<守護騎士システム>と呼ばれるプログラムである。 現存する肉体の消滅すら再生可能なそのプログラム上にあって、一般的な負傷もまた人間とは違い、彼女らにとっては問題と成り得ない。 新陳代謝などの肉体の制約は無く、欠けた部分を埋め合わせることはパズルのように容易なことなのだ。 だからこそ、たった数日とはいえ治癒に掛かった時間は不可解な長さであった。 「……そうね。今度、暇があったら調べてみましょ。ヴィータちゃんも協力してね」 「ええっ!? なんだよ、ヤブヘビだったかな。シャマルって検査とか楽しんでやってるだろ?」 「あら、そんなことはないわ。仕事には大真面目よ。趣味と実益を兼ねてるけど」 冗談交じりに笑いながら、シャマルはその疑念を棚上出来たことに安堵した。 この問題について、シャマル自身が憶測している答えはすでに在る。しかし、それは容易く口に出来るほど軽い答えでもないのだった。ヴォルケンリッターの存続に関わる内容だ。 とにかく、二人は無事を喜び合った。 そうして談笑する中、医務室を意外な人物が訪れる。 来訪者を告げるブザーが鳴り、ドアがスライドすると凡百な制服の似合わない目立つ男が遠慮無しに足を踏み入れた。 「Trick or treat? 暇なんだ、お茶を出すか遊んでくれよ」 ベッドの中で目を丸くするヴィータに悪戯っぽい笑みを向けながら、ダンテは開口一番に言った。 「ダンテ!? え、本物かっ?」 「オイオイ、この甘いマスクの偽物なんて作れるかよ」 気絶する前の記憶が脳裏を過ぎり、無意識に身構えるヴィータを嘲笑うように、ダンテは彼自身を証明するような台詞を吐いてみせた。 安静の為眠っていたヴィータとは違い、既に再会を済ませてあるシャマルに愛想良く会釈すると、誰の許しも得ないまま勝手にベッド脇の椅子へ腰を降ろす。 その図太さと、何者にも遮られない行動は、間違いなくヴィータの知るダンテのものだった。 「……オメー、来てたのかよ」 「詳しい経緯は偉い奴に聞いてくれ。もう嫌って程説明したんでね、繰り返すのも飽きたぜ」 ダンテの格好を見て、ヴィータは何となく事態を察した。 「何しに来たんだ? ビョーキとかケガにゃ縁がなさそうだけどよ」 「眠り姫が眼を覚ましたって聞いてね」 「誰から聞いたんだよ? お前、関係者じゃねーだろ」 「シャーリーって言ったか。いい男がいい女に声を掛けたら会話は成立する、そういう法則があるんだ」 何処まで本気か分からないダンテの話を聞きながら、ヴィータは再確認した。そうだ、こういう奴だ。 実質二度目の顔合わせだが、既に旧知のような二人のやりとりを眺めていたシャマルは、意味深げな笑みを浮かべながら立ち上がった。 「じゃあ、私は奥で書類片付けてますね。カーテン引いておくので、ごゆっくり」 「あ、おい! 変な気を使うんじゃねーよ!」 ヴィータの言葉を聞き流して、『オホホホッ』と変な笑い方をしながらシャマルは去って行った。 苦虫を噛み潰したようなヴィータと愉快そうに笑うダンテがその場に残される。 「……マジで何しに来たんだ?」 「俺の処遇が決まるまで暇なんでね。友好関係を増やすのも飽きたしな」 「オメー、機動六課に入るつもりなのか?」 「さあな。だが、もう無関係じゃいられないだろうぜ。いろいろ関わっちまったからな」 そう言って、ダンテは一瞬だけこれまでを回想するように遠くを見つめた。 人との関わりはもちろん、<悪魔>との関わりも。まるで運命染みた導きによって、バラバラだった要素は一点に集束しつつある。 ダンテは自らの出会いと別れが全て意味を持ち、また同時にコントロールされているかのような錯覚を覚えた。 今、この場所、この世界の状況は、全て自分が発端となっているのかもしれない。 「ふーん……まあ、それなら歓迎してやるよ」 悪い方向へ考え込むダンテにとって、ヴィータのその何気ない言葉は純粋に嬉しく、ありがたいものだった。 不敵でも皮肉でもなく、純粋な喜びから笑みが漏れる。 「ヘイ、何か買ってやろうか? 嬉しいから一つだけプレゼントを送ってやるよ、お嬢さん」 「子供扱いすんじゃねー! ……けど、それなら一つだけあたしの質問に答えろよ」 「何だ? スリーサイズか?」 「茶化すなよ、真面目に答えろ」 「OK、何だ? 言えよ」 ヴィータはしばし言葉を選び、自分と相手の性分を考えて、結局簡潔に質問を口にした。 「――ダンテ。オメーに顔がそっくりな兄弟とかいねーか?」 ダンテの中の時間がその瞬間停止した。 それは間違いなく、そしていつでも余裕を忘れない彼にとって酷く珍しい動揺の表れだった。 何故、ヴィータがそれを尋ねるのか。幾つもの疑惑が心を埋め尽くし、それは殺気染みた圧力となって噴き出そうとする。かろうじて、理性がそれを押し留めた。 意味も無く降ろした腰の位置を直し、ダンテは自らの動揺を宥めた。 ヴィータを見据える。努力したが、それは睨むような形になってしまった。 「……いるぜ、双子の兄貴がな」 問い返さず、素直に答える。そういう約束だった。 ダンテの態度の劇的な変化を、何処か当然だと受け止めて、ヴィータは頷いた。 「あたしを刺したのはソイツだ、きっと」 「……マジか?」 「マジだぜ。まだ誰にも言ってねぇ。 オメーとそっくりな顔で、髪の色まで一緒だ。武器は刀を使ってた。正直、アイツの戦闘力はやべえ。一撃で実感した」 ヴィータの神妙な言葉を聞きながら、ダンテは自らの思い描く人物が一致することを確信した。 ホテルでの一件から、自分に関わる多くの出来事が動き出したことを感じていたが、ヴィータの告げた内容はそれらの中でも最も衝撃的なものだった。 「どういう奴なんだ?」 「名前はバージル。俺とは考えが合わなくてね、一度殺し合った仲だ」 「ひでえ兄弟喧嘩だな。何で、そんな奴があそこにいたんだ?」 「さあね。俺も、今の今まで死んだと思ってたよ」 肩を竦めるダンテの様子を伺って、その言葉に嘘が無いことを悟ると、ヴィータはベッドの枕に凭れ掛かった。 重要な手がかりは掴んだ。しかし、更に重要な点に関しては、これでプッツリと途切れてしまったことになる。 後は、再びあの男――バージルと出会った時に明かされることを期待するしかない。 そして、それは決して在り得ないはずのことではない、と。ヴィータは何処か確信していた。 この双子は、どうあっても巡り合う運命なのだ、と――ダンテ自身が確信するのと同じように。 「……それで、どうすんだよ?」 互いに思案する沈黙の中、唐突にヴィータが口を開いた。 「何がだ?」 「だから、そのバージルって奴のことだよ。黙ってればいいのか?」 思わぬ提案に、ダンテは面食らった。やはり彼には珍しい動揺だった。 「黙ってるって……そいつは、マズイだろ?」 「マズイよ。けど、家族のことだろ? 自分から言えるまで、待った方がいいのかと思ってよ……」 最後は聞き取れないくらい小さく呟き、ヴィータはバツの悪そうにそっぽを向く。その横顔は僅かに赤い。 それまでの陰鬱な思考が吹き飛んで、ダンテは急に笑い出したくなった。 実際に、堪えきれずに吹き出した。ヴィータが恥ずかしさに歯を食い縛って睨む中、その視線すらも心地良く、ダンテは愉快そうに声を押し殺して笑い続ける。 「っんだよ!? 感謝しろとは言わねーけど、笑うことねぇじゃねーか!」 「ハハッ、悪い悪い。お前さんの人情が身に染みてね。ありがとうよ……ククッ」 「だったら、まず笑うの止めろテメー!」 「OK、感謝してるのは本当だぜ。まいったね、こういう組織関係とは相性が悪いはずなんだが、全面的に協力したい気分になってきたよ」 まだニヤニヤと笑みを絶やさないダンテの言葉は酷く胡散臭かったが、彼は限りなく本心を語っていた。 バカにされることは確実だが、素面で愛と平和について万歳をしてやりたい気分だった。 やはり、人間とは素晴らしい。自分とは考えを違えた兄を想い、ダンテは自らの心を確認する。 バージル――奴が再び自分と、彼女達のような者の前に刃を向けるのなら、その時は再び戦うことを迷いはしない。 ヴィータを見つめる瞳に、もはや複雑な感情は映っていなかった。 「バージルに関しては、俺がしっかりと説明してやるよ。もう決めた、俺はこの<機動六課>って奴に協力する。ただし、個人としてな」 「そうかよ、好きにしろ。もうあたしにゃ関係ねー」 「拗ねるなよ、悪い意味で笑ったんじゃないんだ。本当に感謝してるのさ。何か、お返ししてやろうか?」 「いらねー」 「何でもいいぜ、キスでもハグでも」 「いらねーよ、ボケ! ……ま、そこまで言うんだったら、ちょっと外出るの手伝え。リハビリしてぇんだ」 ヴィータの頼みを快く引き受け、ダンテは立ち上がると、そのままおもむろに小柄な体を担ぎ上げた。 「……って、何してんだオメーは!?」 「暴れるなよ、運んでやるのさ」 肩の上でジタバタと手足を振り乱しても揺るぎもせず、ダンテは騒ぐヴィータを担いだまま、シャマルに手を振って医務室を出て行った。 のほほんと手を振り返すシャマルを恨みながら、ヴィータは叫び続ける。 すれ違う局員の好奇の視線が、彼女の羞恥心を大いに刺激して去って行った。もう死にたい。っていうかむしろコイツが死ね。 「てめっ、この格好でどこまで行く気だ!? これ以上目立ったらぶっ殺すぞ!」 「ちょいと今日の予定を耳に挟んでね。向かってるのは、訓練場さ」 その叫び声が大いに目立っているヴィータの文句を笑って聞き流し、ダンテは答えた。 「模擬戦するらしいぜ。お前らの隊長殿とうちのじゃじゃ馬、それに付き合う健気なパートナーがな」 そこで、二人はそれぞれの想い人の衝撃的な戦いを見ることになる。 既に模擬戦は開始されている時間だった。 フェイトが合流し、エリオとキャロが見守る中、ティアナとスバルのコンビがなのはに真っ向から激突する。 その戦闘は、概ねスバルとティアナの事前の想定通りに進行していた。 相手をするなのはにも実感出来る、これまでの二人の戦闘パターンとは違う動き。 ホテル襲撃事件において、ティアナが自ら目覚めたコンビネーションだった。 スバルの荒々しい突撃をティアナの正確な射撃が補完する――ただ一つ、スバルの攻撃がもはや特攻と呼べるほどに自身を省みない無謀さを孕んでいる以外は。 「スバル、ダメだよ! そんな無理な機動!」 「すみません! でも、ちゃんと防ぎますからっ!」 スバルの応答はなのはの叱責の意味を理解していないものだった。 様子がおかしい。それを察した瞬間、思考の隙を突くように高所から正確無比な狙撃が襲い掛かる。 「……っ、容赦ないね」 『敵に応答するな、戦闘に集中して! 今は敵よ!』 「ごめん!」 ティアナの念話を受け、再びスバルの瞳が危険な色を宿した。恐れを故意に忘れた眼だ。 なのはの中で疑念が高まる。 スバルの突撃とそれを援護するティアナの射撃の割合は、絶妙と言えばそうだが、酷く危うい一面もある。 防御を捨てることは、攻撃力の向上に反比例してリスクを押し上げる無理な戦法なのだ。 自分は教えていない。むしろ、戒めてきた。 二人の戦法が、自分の教導を否定する意味を持っていると察し始める。 混乱と、悲しみ……そして、やはりどうしようもない疑念が湧き上がった。 ――あのティアナが、これらのことを全て考慮せずに戦うだろうか? 逆に言えば、この戦いは彼女のメッセージなのではないか? キリの無い疑念が頭の中を掻き回す。なのははこの時、間違いなく動揺していた。 その隙が、スバルの接近を許す。 「でやぁああああああっ!!」 「くっ!?」 カートリッジの魔力を乗せた拳が、なのはのシールドと激突して火花を散らす。 受け止めざる得なかったのは、なのは自身の動揺と、同時に迷いによるものでもあった。 「スバル、どうして……っ?」 愚かなことだと分かっている。ただの被害妄想染みた考えだということも。 しかし、教え導いたはずのティアナと意見を分かち、つい先日の事件に至って、なのはの内に隠した動揺は大きくなりすぎていた。 ティアナの考えていることが分からない。分かってくれないことが分からない。 そして今、目の前で離脱もせずに、防がれた攻撃を尚も続けるスバルも――。 「どうして、こんな無茶をするの!?」 その叫びに、苦悩と悲しみが滲んでいることを、不幸にも若く直情的なスバルが理解することはなかった。 「わたしは、もう誰も傷つけたくないから……っ!」 「え?」 ただ、自分の想いを吐き出す。 「ティアナが傷付いたのは……わたしを撃ったのは……っ、わたしが弱くて、信頼出来なくなったせいだからっ!」 その真っ直ぐな想いを、なのはもまた真っ直ぐに受け止めすぎてしまう。 「だからっ! 強くなりたいんですっ!!」 吐き出された、あまりに強すぎるその想いが、かろうじて保ち続けていたなのはの心の平静を打ち砕いてしまった。 一瞬呆然したなのはの隙を見逃さず、スバルが力の拮抗を崩す。 我に返ったなのはが防御に集中した瞬間。その僅かな一瞬だけ、彼女は思考からティアナの存在を忘れた。 そして、硬骨なガンナーはそれを見逃さない。 「一撃、必殺――!」 「しまった、ティアナ!?」 クロスミラージュの銃口から短い魔力刃を銃剣(バヨネット)の如く発生させた、近接戦闘用のダガーモード。その不完全版。 詳しい機能を教えられるまでもなく、独自の鍛錬と研究によって生み出した、なのはですら知らないその武器を、ティアナはこの土壇場で使った。 その決断が、対するなのはに何よりも本気を感じさせる。 ――どうあっても、自分を倒すのだ、と。 「……レイジングハート」 その決意の意味を、取り間違えたか、あるいは本当にそのままの意味なのか――ティアナが自分を否定したのだと、なのはは感じた。 「モード・リリース」 《All right.》 なのはの中で混沌としていた感情が全て凍り尽く。それは致命的なまでの心理的動揺であり、衝撃だった。 常人ならば放心するしかない。しかし、何よりも彼女の持つ戦闘魔導師としての天性の資質が、肉体を突き動かしていた。 デバイスを待機状態に戻し、両腕に自由を得る。自らもまた肉弾戦で応じる為に。 だが果たして、その冷静でありながら、どこか私情とも見れる判断が、本当に反射によるものだけだったか――なのは自身にも分からない。 混乱、悲しみ、疑念……そして、美しい少女の内に潜むにはあまりに醜い怒り。 差し出した手のひらに受ける、ティアナの鋭い魔力。 腕をカバーするように展開したフィールドと反発して炸裂し、暴走した魔力が周囲を荒れ狂う中、なのはは痛みよりもそれが助長する悲しみと怒りを感じていた。 「……おかしいな。二人とも、どうしちゃったのかな?」 やがて、煙が晴れる。 なのはの視界とその迷いもまた晴れようとしていた。一つに集束していく。暗い方向へ。 「頑張ってるのは分かるけど、模擬戦は喧嘩じゃないんだよ」 視線を動かせば、自分の変貌に畏怖を抱くかの如く震えるスバル。 そして、普段通りの冷静で冷徹な戦闘者としての瞳のまま、自分を見下ろすティアナ。 その瞳が何よりも雄弁に語っていた。 敵だ、と。 「練習の時だけ言うことを聞いてるふりで、本番でこんな危険な無茶するんなら……練習の意味、無いじゃない」 その瞳に拒絶を感じるしかない。 その視線に否定を感じるしかない。 なのはにはもう何も分からなかった。 長い教導官としての日々の中で、教え子達は皆思ったことを素直に質問し、自分が答えると一度だけ顔を見て『わかりました』と言う。 それで全てが済んでしまっていた。 しかし、目の前の少女は違うのだ。 「ちゃんとさ、練習通りやろうよ」 そうしてくれれば、何も問題はないのに。 自分は素直さに優しさで答え、誰も傷付かない。強くもなれる。そう、これまでそうしてきたのに――。 「ねえ、わたしの言ってること……わたしの訓練……そんなに間違ってる?」 なのはは理不尽さを感じずにはいられなかった。 それがある種の身勝手さであったとしても、これまで優しさこそ真に人を導くと信じ続けてきた彼女の健気さを誰も否定は出来ないだろう。 だが、この時彼女が教導官に有るまじき、感情によって動くという行為を成してしまったことも、やはり否定の出来ない失態なのだった。 そうして、誰もが動揺して客観的な分析の行えないまま、事態は動く。 なのはの言葉に答えるように、ティアナがダガーモードを解除して素早く距離を取った。 展開された幾重もの<ウィングロード>に着地し、再度射撃体勢を取ってチャージを開始する。 言葉は無い。どうとでも受け取れ、これが自分の答えだ――なのはにはそんな声が聞こえた気がした。 「……少し、頭冷やそうか」 指先に魔力を集束し、その照準をティアナに突きつける。 スバルが何かを叫んでいる。内心の動揺と混乱に反して、淀みなく魔力が動き、彼女をバインドした。 敵意すら萎えているのに、なのはの指先に集まる魔力は素早く正確に自らの攻撃性を高めていく。 「クロス、ファイアー……」 その時、なのはは自覚無く、あの時のティアナの気持ちを完全に理解していた。 導く為でも、叱る為でもなく、叫び散らしたいような身勝手な怒りで彼女は引き金を引いたのだ。 それは、もし声にしたなら……あまりに人間的な叫びだった。 「シュート」 ――どうして、わたしの気持ちを分かってくれないのっ!? 「……最悪だ」 訓練場の様子を映すモニターを睨みながら、ヴィータは呻くように呟くしかなかった。 なのはの一撃が、ティアナを吹き飛ばす瞬間が見える。 もし訓練弾でなければ粉々に吹っ飛んでいる。それほどまでに容赦の無い一撃だった。 教導官は訓練生を潰さない為にダメージも計算していなければならない。それはなのはも熟知しているはずだ。 だからこそ、本来ならばこんなオーバーキルの攻撃は在り得ない。あの一撃には、理性を超えた激情が透けて見える。 ヴィータの言葉通り、模擬戦は最悪の展開となってしまったのだった。 「ティアナの拒絶が、なのはの心の糸を切っちまった……」 なのはは、ずっとティアナを優しさで案じてきた。 かつてのなのはを知るヴィータにはあまりに思い切りの悪い対応だったが、それでも今のなのはの精一杯だった。 どちらが一方的に悪いわけじゃない。こと今回の事に関して、ヴィータは無条件になのはの味方をするつもりは無かった。 結局、どちらも悪いのだ。 頑ななまでに自分の力を信じ、他人を、仲間すら信用せず、真意を打ち明けなかったティアナ。 そんな彼女に対して、どれだけ拒絶されたとしても決して行ってはいけない、力による解決に踏み切ってしまったなのは。 どちらも間違い、そして事態は最悪の結果になった。 「いや、あたしも甘かったか。何か出来たはずなんだ」 なのはを信頼しすぎた。いや、頼りすぎたのか。どちらにしろ、それが悪いことだと断ずることも出来ない。 結局、成るべくして成ったというのか――。 ヴィータは例え答えが出なくても、そんな愚かな結論に行き着いてしまうことを拒否し、頭を振った。 そしてふと気付き、傍らにいるはずのダンテに視線を投げ掛けた。 彼は、この結果をどう思っているのだろうか? 「やっぱり、ヤバかったな」 モニターを静かに見据え、ダンテは驚くほど平坦な声で、そう呟いただけだった。 それを見上げるヴィータの視線に力が篭る。 「……オメー、この結果を分かってたんじゃねぇだろうな?」 「だとしたら、どうする?」 「止められなかったのか?」 「無理だ。それに、そんなつもりもなかった」 誤解を恐れず、ダンテはただ必要なことだけを答えた。 ヴィータは何も言わない。ダンテの考えはもちろん、果たしてこの結果が本当に悪いものなのかも決められなかったからだ。 いずれにせよ、答えは出た。あとは、二人の仲を修復するだけでいい。 それこそが真の問題だと頭を悩ませ、唸るヴィータに、ダンテは何気なく告げた。 「――それにな、話はまだ続くみたいだぜ」 「え?」 「だからヤバイんだ」 ダンテの深刻な呟きに、ヴィータは変わらず訓練場を映すモニターに再び視線を走らせた。 「ティアァァァーーッ!!」 スバルの悲痛な声が空しく響く。しかし、粉塵の向こうから答えはない。 なのはは早くも後悔を感じていた。外見こそ平静を装っていたが、自分の為したことが信じられないほどに動揺していた。 睨み付けるスバルの瞳が、これまでずっと尊敬の念を映してきた自分を見る眼が、今は悲しみとも憎悪ともつかないもので荒れ狂っている。 それは間違いなく自分の罪を示すもので、責める罰なのだろう。 なのはは疲れたようなため息を吐き出し、もう一度スバルを見た。とにかく、模擬戦は終わり、それを告げなければならない。義務だ。 「模擬戦はここまで。今日は二人とも、撃墜されて……」 言い掛け、その時になってようやく気付いた。 スバルの視線が、自分を向いていない。正確にはすぐ近くを見ながら自分の顔に焦点が合っていない。 ――ゾクリと、なのはの戦いの感覚が全力で不吉を告げた。 「ティアナ……ッ!?」 その戦慄の原因をなのはは直感し、言葉ではなく現実がそれに返答した。 撃墜したはずのティアナの位置へ走らせた視線が、粉塵の中で消失する人影を捉える。 わずかに見えたティアナの姿が、まるでホログラムのように消え去った。 比喩でもなく正真正銘の幻影だ。 「あれは……<フェイク・シルエット>!?」 希少な高位幻影魔法の名が口を突く。幻影系の魔法を習得中だと、ティアナ自身が語ったことをなのははこの瞬間まで忘れていた。 在るはずのものが消え、それと同時にいないはずのものが出現した。 呆気に取られるなのはの傍らで、空気が歪み、絵の具が紙に滲み出るようにして人の形と色をしたものが姿を現す。 それこそが、本物のティアナだった。 「<オプティック・ハイド>!」 なのはが全てのカラクリを理解した時、全ては致命的なまでに終わっていた。 出現したティアナは既になのはのすぐ傍まで肉薄している。突き付けられたクロスミラージュの銃口は、その頭部を無慈悲に捉えていた。 呆気に取られているのは、スバルさえ例外ではない。この展開は彼女さえ知り得るところではなかったのだ。 なのはとティアナの視線が交差し、その間をスバルの視線が彷徨う。 「ティ、ティア……これって?」 「Eat this」 一切合財を無視して、ティアナは引き金を引いた。 回避など絶対不可能な超至近距離で魔力弾が放たれる。なのはは咄嗟に障壁を眼前に生み出した。その反応速度は歴戦の魔導師だけが為し得る奇跡だった。 しかし、察知されない為にチャージこそしていなかったものの、その一瞬に備えていたティアナの攻撃はなのはの咄嗟の防御を凌駕した。 閃光の炸裂を伴って、障壁を魔力弾が突き破る。 ティアナを含む誰もが、その結果を確信した。 なのはの反応はまさにギリギリの反射によるものだった。 その一種の奇跡によって生み出された防御を抜ければ、もう後には猶予など残されていない。 ――だから、なのはは自らその猶予を作った。 「な……っ!?」 眼前で瞬く、もう一度『魔力弾と障壁がぶつかる閃光』を見て、ティアナは初めて動揺した。 魔力弾は二枚目の障壁によって受け止められていた。 なのはの『口の中』で。 魔力弾の射線上にある口を開き、そこに攻撃を導くことで僅かな距離と時間の猶予を作った。そして、口内に極小規模な障壁を形成することで、魔力弾を受け止めたのだった。 ティアナでさえ予想し得なかった、その一瞬の判断と決断に誰もが戦慄する。 なのははぐっと噛み締めるように口を閉じた。 障壁にぶつかって弾けた魔力の残滓が口の中で飛び散ってチリチリと痛む。 しかし、そんなものは全く些細なことだった。 「……ティアナ、これがアナタの答え?」 なのははティアナを見据え、静かに告げた。 もうそこには怒りも動揺もない。本当にギリギリまで追い詰められた瞬間、彼女の中に眠る爆発力が全てのしがらみを吹き飛ばしていた。 ただ純粋な強い意志を宿した視線を受け、ティアナは舌打ちしながらその場から飛び退る。 一瞬にして距離を取り、エアハイクによって更に離れた足場へと移動していた。 かつてないほど鋭い動きだった。スバルとの自主練習中や、ここまでの模擬戦の最中でさえ見せなかった、ティアナの真の力だった。 予想もしなかったな展開と、パートナーの変貌に、スバルはもう何も考えられない。 「ティア……」 「ティアナ、スバルを囮にしたね?」 まだパートナーを信じようと、縋るように呻くスバルを、なのはの断ち切るような言葉が停止させた。 スバルの頭の中でバラバラに散らばっていた破片が、その言葉でカチリと噛み合う。 状況が全てを語っていた。 二人で練習した訓練、練った作戦――その全てがあの一瞬の為の伏線でしかなかったのだ、と。 「ティアナ、アナタはスバルを仲間じゃなく駒として扱ったんだよ」 「ち、違うんです、なのはさん!」 今度こそ、正しい怒りを迷いなく向けるなのはに対して、スバルは慌てて言い縋った。 何かの間違いだと、そう信じていた。 「あの、これもコンビネーションのうちで……っ! っていうか、わたしが悪いんです! わたしが、もっと……っ!」 「スバル」 必死に言い募るスバルを、横合いから冷たい言葉が殴りつける。 震えながらその方向を見た。 ティアナが見下ろしていた。どうしようもなく冷酷で冷徹で、相棒を思いやる暖かみの一片さえ含まれない瞳で。 「アンタのそういう寝言がウザくて仕方なかったのよ」 吐き捨てられた言葉が、一緒に二人の間にあった繋がりさえ切り捨ててしまった。 スバルがその場に崩れ落ちる。 その様子を一瞥し、なのははティアナを見た。驚くほど落ち着き、睨みもせず、ただハッキリと『強い』視線だった。 「ティアナ……」 「さあ、続けましょう高町教導官。まだ模擬戦は終わってません。一人リタイア、後は一対一です」 不敵な笑みを浮かべてクロスミラージュを構える。その仕草だけは、まったく普段通りのティアナだった。 「ティアナは、わたしに勝って何を証明したいの?」 「何も。強いて言うなら、現状での修正点です」 「修正? 何か、間違ってるところあるかな?」 すでに二人の意志は戦闘時のようにぶつかり合っていた。 避けられない戦いを前に、なのははティアナの真意を探るように言葉を投げ掛ける。 「私が勝てば、認めざるを得ない――今の高町教導官が想定する私の戦闘力が、間違っているという現実を」 ティアナは初めて得られた的確な質問に対して喜ぶように笑って答えた。 「足りないんです、力が。今の訓練じゃ、私の得られる力はあまりに少ない」 「ティアナは十分強いよ」 「何を基準にした『十分』なんですか? アナタに私の求めるものの何が分かると?」 嘲るような笑みに、なのははもう必要以上のショックを受けなかった。 ただ受け止める。この言葉は、自分が望んだものだ。 ティアナの本心だ。 「私は、ただ理屈を言ってるんです。 別に先の事件の失敗を帳消しにして、死んだ兄の正しさをこんな形で示したいわけじゃない。やるべきことは分かってます。その為に必要なモノも」 ティアナは全てを吐き出すように続けた。 声も荒げず、ただ穏やかに、淡々と。それこそがティアナの本気の証なのかもしれなかった。 「高町教導官、アナタの力を尊敬します」 「力、だけなんだ……」 「今のままじゃ足りない。その力が欲しい。だから、私が証明するとしたら――唯一つ、更なる教導の必要性だけです」 明確な理屈に基づく話を終え、ティアナは全てを任せるように口を噤んだ。 悲しいほどに冷静な言葉だった。なのはを打ち倒すことで何かを得られるなどと錯覚せず、あくまで適切な手順を踏んで自らの目的を達成しようとしている。 しかし、やはり――。 「ティアナは手段としての力が欲しいんだね。それは、きっと正しいよ。力はいつだって手段なんだ」 なのはは噛み締めるように呟いた。 ティアナの理路整然とした言葉の前に頷いてしまいそうになる自分を、心の何処かで止める『根拠の無い何か』が在る。 それはティアナにとっては愚かしいものなのかもしれないが――なのははそれに従った。人間として、正しいと信じて。 「……そう、力は手段に過ぎないんだよ。それは、やっぱり事実なの」 俯いていた視線を上げ、なのはは真っ直ぐにティアナの瞳を見据えた。 その意志在る瞳を、かつての彼女を知る者が見れば気付いただろう。 迷い無く、理屈や常識を超え、己の心が叫ぶままに自らを信じようとする子供のように純粋な瞳だった。 「例えどんなに必要でも、自分を慕う人や仲間を切り捨てて、自分まで削って尖らせて……そんなになってまで求めるものじゃない。 もうその時点で、力はアナタの為に在るんじゃなく、力の為にアナタが在るようになってしまっているんだよ!」 訴えかけるようななのはの叫びに応じて、レイジングハートが再び真の姿を現した。 ティアナ、その姿にも言葉にも微動だにしない。 もはや、彼女を揺るがすものは無いのか。しかし、なのはは語ることを止めなかった。 「本当にたいせつなものは、力なんかじゃない。それを扱う自分自身――。 苦しい時、追い詰められた時、いつだって最後には自分を突き動かしてくれる、魂なの!」 今の自分に出せるだけの想いを吐き出して、なのははぶつけた。 自らの手を静かにその胸に当て、其処に在るものを確かめる。 10年前、全ての始まりから自分を動かし、どんなに辛い時も立ち上がらせてくれた。歳を経て、久しく感じられなかったソレが、今再び燃えていた。 「その魂が叫んでる……ティアナを止めろって!」 今日までの迷い、悲しみ、怒り――全ての人間的感情を一つの意志に束ねて、それを決意としてなのはは指先と共に突き付けた。 その決死の覚悟に、ティアナは嘲笑で応える。 暗い笑い声が響き渡った。 ティアナもまた、既に揺らぐことの無い覚悟を終えてしまっているのだった。 「申し訳ないですが……『あたし』の魂はこう言ってる」 飾り立てた敬語が崩れ、ティアナの真の意志が露わになる。 なのはと同じように、胸の内で燃え続ける確かな決意に手を当て、確かめるようにその叫びを感じ取った。 何かを与えるのではなく、ただひたすらに求め続ける魂の渇望を。 全ては、何も出来ない自分の無力を殺す為に――。 「――もっと力を!」 ゆっくりと一語一語噛み締める、地を這うような重い決意の言葉が、その瞬間決定的に二人の間を分ってしまった。 二人の強烈なまでの意志に、スバルと遠くで見据えるフェイト達や、ヴィータ、ダンテさえ飲み込まれていく。 誰の顔にも悲痛な表情が浮かんでいた。そして、同時に共通して確信していた。 どうなろうと、この二人の戦いの決着が全ての答えだ。 誰も手出しなど出来ない。 なのはとティアナ。言葉は全て吐き尽くし、後は力と意志だけが結果を生み出す。 静寂。そして、同時に。 互いに相手の意思を叩き潰す為、二人は行動を開始した――。 to be continued…> <悪魔狩人の武器博物館> 《デバイス》ボニー クライド 本作のみのオリジナル武器。ダンテが現在携行している銃型のデバイスを指す。 二挺左右で交互に連射も、二方向の同時射撃も可能。 質量兵器の禁止されたミッドチルダにおけるダンテの武器として、ティアナがアンカーガンのパーツを流用して作成した簡易型デバイス。 一般的なデバイスと比較すると特異な外見だが、実際の性能はごく標準的なストレージデバイスである。 使用可能な魔法も単純な弾丸型射撃魔法<シュートバレット>以外登録されていない。 カートリッジシステムも未搭載の完全に普遍的なデバイスだが、ダンテの魔力によって驚異的な速射性と威力を誇る。 驚くほど単純な機構の代わりに、強度はアームドデバイス並にある。 デバイスの名付け親は不明。その意図も不明である。 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/sky-x/pages/23.html
高町なのは 年齢:16歳 所属:時空管理局本局武装隊 航空戦技教導隊 役職:戦技教導官 階級:二等空尉 出身:第97管理外世界(現地惑星名称「地球」)極東地区日本・海鳴市 魔法術式:ミッドチルダ式 魔導師ランク:空戦S+ランク 魔力光:桜色 デバイス:レイジングハート・エクセリオン デバイス種別:インテリジェントデバイス 特技・特記事項:特殊技能「魔力集束」 武装隊の「エースオブエース」の称号を持つ一流の魔導師。 優しく面倒見が良い性格。ちなみに左利き。 休暇を利用して実家の海鳴市に戻った際に偶然、イデアゴーストと戦うゆうきと遭遇。 ゴーストを送り込んでいるのが管理局だと誤解したゆうきと敵対することになる。 二度目の戦闘でゆうきに敗北するが、ゆうきがなのはを悪人とは思えなくなったため和解する。 デバイスはベルカ式カートリッジシステムを搭載したインテリジェントデバイス「レイジングハート・エクセリオン」
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/152.html
近頃世間では、”ゆっくりいぢめ”というものが流行っているらしい。 いぢめ、と言っても、それはあくまで流行りを作り出すために言葉を濁しただけであって、 実際は、ひどいものなら虐待・殺害行為そのものであった。 しかし流行りというものは恐ろしいもので、あるものは口コミで、あるものはテレビ、新聞などのメディアに踊らされ、 私の回りでは、皆”いぢめ用”のゆっくりというものを家に飼っている。 なんでも、お昼のお茶の間番組曰く、ゆっくりいぢめは、ストレス解消に大変効果があるらしい。 深夜の通販番組などでは、ゆっくりいぢめがダイエットに効果的だと謳っている時もある、何を言っているのやら。 …かくいう私も、一般的な小市民である。 流行りに乗ってみようといった気持ちが無かった訳ではないが、 日々のストレスのはけ口に困り、かつ親しい友人もあまりいない私である、興味を持ってみてもいいではないか。 ただ単純に興味のみで、生き物の命を蔑ろにするような行為をしても良いものか、とも思ったが、 日本人とは恐ろしいもので、皆が生き生きと今日のいぢめの内容で盛り上がっているのを見聞きすると、 なんだ、そんなもんなのか、と軽く思ってしまったりもする。 しかし、実際にゆっくりいぢめ専門グッズショップに行く勇気はなかったので、 私はインターネットの通販サイトでセール品でお手頃な価格だったものを一つ購入してみることにした。 今ならキャンペーン期間中で、いぢめ用のゆっくりが一匹ついてくるらしい。 荷物到着当日、いったいどのような形で郵送されてくるのか気になったが、何のことはない、 グッズはダンボールで、ゆっくりはチルドパックで送られてきた、生き物なのかそうでないのかわからないやつだ。 私はまず購入したグッズを開封して中身をチェックする、どうやら誤配や欠損などはないらしい。 今回私が購入したのは、『しあわせのはこ』という商品名で、なんでも ”中に入ったゆっくりの幸せ度合を感知して天井が下がっていき、設定した幸せ度合に達した時点で中のゆっくりがつぶれる” というものらしい、なかなかに悪趣味である。 縦長の透明な箱に、小さな機械が取り付けられ、それによって天井が下がる仕組みになっている。 箱の側面には空気用の穴と、中からは開かないゆっくりの出入り口、そして餌を与える小窓がついていた。 本当にこんなものでストレス解消になるのだろうか、と思ったが、やはりやってみるのが一番だろう。 商品の箱を開けると、中には『しあわせのはこ』の元になるであろうパーツ類と、 柔らかい素材でできた中にいれるゆっくり用の生活道具が入っていた。 おそらくこれは、ゆっくりが死ぬほど天井が下がったときに、生活道具が天井の稼働の邪魔をしないようにだろう。 私は『しあわせのはこ』を組み立て終わると、チルドパックの発泡スチロールの箱を開けた。 すると中には、たっぷり詰まった梱包材に埋まって幸せそうに寝息を立てている一匹のゆっくりがいた。 黒い髪の毛に真赤なリボン、どうやら”ゆっくりれいむ”という品種らしい。 大きさはちょうど野球ボール程度で、成体ではないらしい。 箱を開けて少しすると、れいむはぷるぷると身体を震わせて、パチリと目を開け 「ゆっくりしていってね!」 と、元気よく挨拶をした。 「ゆっくりしていってね」 私はその挨拶に、返事をしてやった。 するとれいむはにっこりとほほ笑んで、ゆ~ゆ~♪と楽しそうに体を揺らし始めた。 なんだ、可愛いじゃないか。 それが私の素直なれいむへの第一印象だった。 私は本当にこいつを殺すことが出来るんだろうか… 脳裏にそんな疑問がよぎる。 大丈夫、皆やってることじゃないか、ゆっくりなんて勝手にぽこぽこ増えて、 自由気ままに生きて、時には害獣になるような生物らしい。 それにこいつは、”いぢめ用ゆっくり”だ、いじめ殺されるために生まれ、そのために死んでいくのだ。 こいつが死ねば私の日々のストレスがすっきりするのだ、 そのために私は安かったとはいえ自腹を切ってあのはことこいつを買ったのだ。 私は自分にそう言い聞かせて、れいむにそっと手を伸ばした。 「ゆゆっ、おねーしゃんのおてて、あったかいね!すーりすーり!」 するとどうだろう、れいむはこれから自分の身に起こることを全く知らないのだろう、 無邪気に私の指にほほを寄せ、すりすりと頬ずりを始めてしまった。 私の中の良心が、チクリと痛む。 決心が鈍ってしまわないうちに、私はれいむをすくいあげて、箱の前にそっと置いた。 そして箱の入口を開けてれいむを中に導く。 箱の中には、商品についていた小さなクッションや、柔らかいおもちゃ等が入っており、 ゆっくりには魅力的な場所になっていたのだろう。 れいむは入口が空くと、目をきらきらとさせて、 「しゅごーい!ここをれいむのゆっくりぷれいすにするよ!」 と、元気よく中に入り、お家宣言をした。 ここまでは箱の中に入っているマニュアル通りだ。 ”セッティングを正しく行い、ゆっくりを入れましょう、ゆっくりは中に入り、お家宣言をします” こうも行動を正確に予言されてしまう生き物っていうのも、どうなのだろう。 私はマニュアルを読みながら、出入り口を締め、箱に備え付けられている小さな機械をいじり、 電源を入れる、最初に設定することになる幸せ度合は、なるべく高いものにした。 「むーちゃむーちゃ、しあわせぇ~!ゆ~んゆんゆ~ん♪」 れいむは早速、餌箱に入っているフードを食べ、幸せを感じているようだ。 箱の天井がゆっくりと下がっていく。 けれどれいむはまだそのことに気づいていない、天井はまだれいむの体長の5倍程度の位置にあった。 れいむが幸せな時間を感じるごとに、れいむの命の残り時間は確実に削れていく。 私は、そのれいむが入った箱をオブジェのようなものだと思うことにして、日常生活を送ることにした。 餌箱には、たくさんのフードと水を入れておいた、しばらくは持つだろう。 これだけゆっくりと降下するように設定しておけば、少々目を離した程度では、 見ていない間につぶれていた、ということはないと思う。 けれどれいむは勝手に一人で幸せを感じる…いわゆる、ゆっくりしているというやつのようで、 少しづつではあるが、確実に天井が下がっていくのがわかる。 一抹の不安を抱えながら、私は部屋着から着替え、仕事に出かけることにした。 仕事を片づけて、急いで家に戻ると、なんと天井はれいむの頭の上すれすれまで来ていた。 なんと幸せな生き物なんだろう、どの程度の幸せを感じると天井がこうなるのかは、体験した本人にしかわからないだろう。 しかし、半日少々放置した程度で一匹で勝手にこんなに幸せを感じれるというのは、 まさに脳みそお花畑という状態に他ならないだろう。 私は今日も仕事疲れに、嫌味な上司のいやがらせでストレスが溜まってしまったというのに。 このお天気な生き物が苦しむ姿を見たら、さぞスカッとするだろう。 今の私は、そんな気分になっていた。 「おねーしゃん!ゆっくりおかえりなさい!」 れいむは私の足音に気づくと、あほ面まるだしで眠っていたクッションから体を起こし、私に笑顔を振りまく。 「ゆゆ~ん、れいむのゆっくりぷれいすが、なんだかせませまさんになってきたよぅ」 今まで気づいていなかったのだろうか、そんな悠長なことを言っていた。 私の顔を見て、何故かまた幸せを感じたらしく、ゆっくりと天井が下がっていく。 天井はついにれいむの体長の高さより低くなり、私の目の前でゆっくりとれいむが縦方向につぶれていった。 「ゆゆ!どうしてちゅぶりぇるの!?れいむ、ゆっくりできないよ…」 れいむが悲しそうにぼろぼろと涙を流す、すると今まで下がる一方だった天井が、少しだけ上方向に移動した。 幸せ”度合”と記載されていたのは、つまりそういうことだったのだ。 不幸を感じると天井がせりあがる仕掛けらしい、たしかにこうでもしなければ、最高設定でもこれなのだ、 この中に入れられたゆっくりなど、あっという間に圧死してしまうだろう。 「ゆゆっ!すこしひろくなっちゃね!ゆっくりゆっくり!」 れいむが喜びを体をくねらせて表現すると、また少し天井が下がって、れいむの頭の上に乗っかった。 そしてれいむが、嘆き悲しみ、天井がゆっくりと上に上る。 以降れいむはしばらくこれを繰り返していた。 本人はこのシステムに気づいてはいないのだろう。 そろそろ天井が上下していることに気づき、どういう状況になると圧迫されていくのか理解してもよさそうなものである。 しかしれいむは一々、天井が下がってくると狭くなった、つぶれちゃうと泣き、天井が上がると、ゆっくり出来ると歓喜した。 それをずっと眺めているのはなんだか馬鹿馬鹿しく思えてしまったので、私は疲れた体を癒すために風呂に入ることにした。 風呂からあがると、箱の天井はれいむが通常時の半分くらいの高さになるまで下がってしまっていた。 しかし今度は、天井が上昇する気配はない。 私はその様子を不審に思い、寝間着に着替えてかられいむに近寄った。 「おね…しゃん…」 れいむはつぶれた体に圧迫されて開ききらない目で、私を見つめてきた。 「れい…む、おねーしゃんのおかげで…とっても、ゆっくり…できたよ…」 れいむが言葉を紡ぐごとに、また天井がぐぐっと下がる。 「なにをいっているの?」 私は戸惑った、実際私はれいむに何かしてやった覚えはない、ただ好奇心でれいむを買い、 殺すために箱の中に入れた、それだけだ。 「ゆっくりできる…ゆっくりぷれいすをもらって………ごはんもむーしゃむー…しゃ…して…」 ぐ…ぐぐ…天井がゆっくりとれいむの体を押しつぶしていく。 元の体長の3分の1位の高さまでつぶれてしまったれいむの体には、 ところどころに亀裂が入り、どろりとした黒い塊があふれ出てきていた。 けれど、れいむは”幸せを感じる”ことをやめなかった。 「おうたもうたって…ふかふか…しゃんで…ゆっくりして…」 天井は止まらない。 なぜこいつはこんなことを言っているんだろう。 私はこいつの命を奪おうとしているのだ、憎まれて当然なのに、なぜ。 さっきまで天井が下がってきたら不幸を感じていたのに、今は圧死寸前にもかかわらず、 なぜ私に感謝を述べ、なぜ”幸せを感じている”のだろう。 「れいむは…もうしんじゃうかもしれないけど……」 天井はなおも下がり続け、れいむは圧迫され続ける。 れいむは息も絶え絶えで、けれど私に向って、その小さな言葉をぶつけ続けた。 「さいごに…もういっかい……すーりすーり…しちゃか…」 「もういい!」 ぐいぐいと私の胸が締め付けられる。 私は急いでドアをこじ開けてれいむを取り出そうとした、けれどもうそこは狭すぎて、 私の手ではれいむを取り出すことは出来なかった。 「はやくこっちに出ておいで!」 もうつぶれ過ぎて目もろくに見えていないのだろう、れいむは私の声のする方に向ってずりずりと力無く移動を始める。 「おねーしゃん…いままで…」 その間も天井はぐいぐいとれいむに死を押しつけていく。 天井を止める方法はないかと、私は備え付けてある機械を操作した。 けれど操作方法が分からない、気が動転してしまって、機械の操作もうまくいかなかった。 「ありが…ちょ…」 ぶちゅり 小さな音が私の耳に響き渡る。 どろり…とれいむの中身が、箱の入口から漏れ出した。 「あ…あぁ…」 私は足の力が抜けて、ぺたりとその場に尻もちをついてしまった。 うそつきだ、皆皆うそつきじゃないか。 何がストレス解消だ、なにがスカっとするだ。 こんなにいい子が目の前で無慈悲に死んでしまった。 機械がやったんじゃない、この子を殺したのは私だ。 後に残ったのは、ただただ後悔だけだった。 いつの間にか私は、声を出して泣いていた。 後日、パソコンのメーラーに、あの『しあわせのはこ』を買ったサイトから、謝罪のメールが届いていた。 なんでも、キャンペーン用のゆっくりの一部に、 ”いぢめ用ゆっくり”ではなく”愛玩用ゆっくり”が混入していたというのだ。 恐らくあのれいむはその”愛玩用ゆっくり”というやつだったのだろう。 後で調べて分かったことだが、”いぢめ用ゆっくり”は特殊加工された 人間に嫌悪感を誘うような言葉を吐き散らかしたりするようなゆっくりで、殺しても良心が痛まない、のだそうだ。 本当にそうだろうか、それは分らないが、少なくとも私はもう二度とゆっくりを虐める気にはなれなかった。 私はあのあとすぐに、庭の隅っこに簡単ではあるが、れいむの墓を作った。 あの墓の下でれいむは幸せに眠ってくれているだろうか。 れいむは気づいていなかったのかもしれないが、自分を殺した張本人に弔われて、本当によかったのだろうか。 けれど私にはそれ以外の償いが思いつかなかった。 『しあわせのはこ』は、家に届いた段ボールの中にしまい、押入れの奥にしまってある。 あの箱が再びゆっくりの幸せを吸い取ることは、おそらく二度とない。 終わり。 ----------------------------------- どうも、ばや汁です、なんだか後味の悪い話で申し訳ないです。 職場でぼーっとしてたら思いつきました、思いついたら書きたくなっちゃうんです。 D.Oさん一周年おめでとうございます! 記念SSをUPしたいなぁと思ってはいるんですが、間に合うかしら… ばや汁でした。 いつも多数のご意見ご感想ありがとうございます! この作品へのご意見ご感想も、どうぞお気軽にお寄せください。 個人用感想スレ http //jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13854/1278473059/ 今までの作品 anko1748 かみさま Thanks 300 Yukkuri! anko1830-1831 とくべつ anko1837 ぼくのかわいいれいむちゃん anko1847 しろくろ anko1869 ぬくもり anko1896 いぢめて anko1906 どうぐ・おかえし anko1911 さくや・いぢめて おまけ anko1915 ゆなほ anko1939 たなばた anko1943 わけあり anko1959 続ゆなほ anko1965 わたしは 挿絵:車田あき
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/1205.html
魔法少女フルメタなのは 第二話「流れ着いた兵士達」 ミッドチルダの首都クラナガン。その一角にある時空管理局機動六課隊舎。 先程まで静寂で包まれていたこの場所だが、今ではエマージェンシーコールが鳴り響く騒がしい場所となっている。 「何が起こったん?」 作戦室に入ってきたのは六課の部隊長にしてオーバーSランク魔道士、八神はやてである。「強大な次元振反応を確認、その同地区に大型の熱源が出現するのを感知しました。」 「場所は?」 都市部の外れ、廃棄都市区画です。」 はやての問いに、六課メンバーのシャーリーとグリフィスが答える。 「スターズ分隊を目的地に調査に向かわせてや。ライトニング分隊は出動準備のまま待機や。」 「了解。」 六課フォワードメンバー・スターズ分隊は輸送ヘリ「ストームレイダー」で廃棄都市区画へと向かう。 「ねぇティア、次元振はともかくさ、大型の熱源て何だろうね?」 スターズメンバーの一人、スバル・ナカジマが言う。 「アンタね、それの調査があたし達の仕事でしょ!?」 同じくスターズメンバー、ティアナ・ランスターが呆れ気味に答える。」「あ、そっか。」 「ハァ…アンタは本当にいつもいつも…」 あっけらかんと言うスバルに対し、ティアナは嘆息する。 「にゃはは…まぁガジェットの反応もないし、それ程危険な事にはならないよ。」 スターズ分隊長、高町なのははそんな二人を見て、苦笑しながら言う。 「でも何があるのかは分からねぇんだ。あんまし気を抜くなよ。」 スターズ副隊長、ウ゛ィータが忠告する。 「「はい!!」 「ったく、返事だけは一人前だな…」 「にゃははは…」 とても任務中とは思えない空気のまま、ヘリは目的地に到着した。 「データだとこの辺りの筈だよ。」 「あっ、あれじゃねぇか?」 ヘリから降り、バリアジャケットを装着した四人は、少し広い場所に倒れていた“それ”を発見した。 「これって…ロボットっていうやつ?」 そこにあったのは、8メートル程の大きさの白と灰色の二体の鉄の巨人だった。 「うん…一般的にそう言われる物だろうね。」 ティアナとなのはは静かにそう呟く。 が、スバルはというと… 「すっごーい!!!ねぇねぇティア、ロボットだよロボット、くぅ~かっこいいー!!」 子供のようなはしゃぎっぷりであった。 「うっさいバカスバル!!」 「あう!」 お気楽な事を普通に言うスバルに、ティアナは脳天チョップを利かす。 「はしゃいでんじゃないわよ!危険なモンだったらどうすんのよ!ですよね、ウ゛ィータ副隊長?」 ティアナはウ゛ィータに同意を求めるが、当の副隊長は、 「ああ…そうだな…」 上の空で聞き流し、目をキラキラさせながらロボットを見ていた。 「………」 完全に沈黙するティアナ。 「あ、あははは…まぁとにかく調査しないとね。」 気を取り直してロボットに近付なのは。 しかし、彼女が軽く表面に触れた瞬間、二機のロボットが光を発した。 「な、何!?」 光は機体全体を覆い尽くし、それが収まった時、そこにロボットの姿は無かった。 「あ~っ、かっこいいロボットが~!?」 「なのは、テメェ!!!」 非難と怒号を同時にぶつけるお子様コンビ。 「え、えぇ~!?」 悲しみと怒りを宿す瞳に詰め寄られ、後退るなのは。 それを呆れながら見ていたティアナだが、ふとある物を発見した。 「皆あれ見て、人が倒れてるわ!」 その言葉に騒ぐのを止める三人。そして前方を見るとロボットのあった場所に二人の男が倒れていた。一人は金髪の青年、もう一人は黒髪の少年だった。 「大丈夫ですか!?」 急いで駆け寄るなのは達。 「…大丈夫、生きてるよ。ロングアーチに連絡、至急医療班を!」 生命反応を確認し、指示を飛ばすなのは。 「ふぅ、あとは…ん?」 連絡を終え、倒れている二人を運び終えたスバルが、何かを見つけて拾った。 「これって…デバイス?」 「う…」 意識を回復させた宗介は、まず自分がベッドに寝かされている事に疑問を抱く。 (どういう事だ…俺はたしかアーバレストのコックピットにいて、あの光に…) そこまで思い出して、宗介は飛び起きた。 「クルツ!!」 自分を救う為に巻き添えになった仲間の名を呼び、周りを見渡す。 「すぅ…すぅ…」 隣のベッドでまだ眠っている相棒を見つけて安堵する宗介。 「クル…」 そして手を伸ばして起こそうとした時、部屋の扉が開いた。 「あ、目ぇ覚めたん?良かった~、ケガとかないのに丸一日も眠ってたから心配したんよ?」 入ってきたのはなのは、はやての二人であった。 しかし、二人の姿を確認した途端、宗介の表情に警戒の色が浮かんだ。 「君達が俺達を助けてくれたのなら、まずはその事について礼を言う。だが、ここはどこだ?君達は誰だ?」 長年の軍隊生活で身に着いた口調と癖がここでも発揮された。 それを聞いたはやて達は表情を少し曇らせる。 「ご挨拶やなぁ~、こんな美少女が目の前におるのに、他に言うことないん?」 そう言って冗談めかしてセクシーポーズをとるはやてだが、彼を知る者なら誰もが認めるミスター朴念仁の宗介に、それは通用しなかった。 「美しくてもそうでなくても、見ず知らずの人間を簡単には信用できん。第一、君は少女という年齢には見えん。」 言った瞬間、部屋の空気が凍り付いた。はやては先程のポーズのまま固まっていた。 「はやてちゃん…」友人を心配するも、掛ける言葉が見つからないなのはだった。 その後、何とか復活したはやては宗介に自己紹介と幾つか質問をし、彼が管理外世界の人間である事を確信した。 そしてここが魔法世界であるという事実は、起動したデバイスや簡単な魔法を見せることで理解させた。 「何と…だが、しかし…」 今一つ納得しきれない宗介に、背後から声がかかる。 「オメーはいい加減、その石頭を軟らかくしろよなソースケ。」 「クルツ、起きていたのか。」 クルツはむくりとベッドから起き上がり、三人の方に向き直る。 「あぁ、今さっきだがな。それより魔法の世界とはな~、ぶったまげたぜ。」 「まぁそうだろうね。私も初めて知った時は驚いたよ。」 そう語るなのはにクルツは目を向け、 「あんたも俺らと同じなのか?」と聞く。 「近いところはあるかな。ここへは私の意思で来たんだけどね。」 「ふーん。あ、それより助けてくれた事の礼をしてないな。」 「ええよ、そんなお礼なんて~。」 「何ではやてちゃんが照れるの…」 「まぁ二人とも関係してるからな、お礼は両方にしなくちゃな。では、まずはやてちゃんから…」 そう言うとクルツははやての手を取り、ゆっくりと顔を近付けて行く。 「ちょっ、クルツさん!?」 突然近寄ってきたクルツの甘いマスクに、はやては顔を真っ赤にする。「大したことはできねぇけど、せめて俺の熱いベーゼを…」 だが、彼の唇がはやてのそれと重なる事は無かった。なぜなら… 「はやてから離れろおおお!!」 遅れてやって来たヴィータが状況を瞬間的に判断、起動したグラーフアイゼンをクルツに叩き付けたからだ。 「ぐふぅ!!!」 クルツは勢いのままに吹き飛び、壁面とキスすることとなった。 そんな中、宗介は一言、 「良い動きだ。」とだけ言った。 物事に動じない男であった。 騒ぎが収まった後、はやては二人に話しかけた。 「ほんでな、今日うちらが来たのは見舞いだけやのうて、二人に話があったからなんよ。」 宗介、クルツの両名は顔を見合わせる。 「話とは、一体何だ?」 「うん。二人とも、一般人やのうて、何処かの組織と関わりのある人やろ?」 それを聞き、二人は表情を硬くする。 「何故そう思う?」 「宗介君のしゃべり方、クルツさんの着てた戦闘服、何より二人の持ってた認識票と拳銃。一般人と信じろっちゅー方が無理や。…本当の事、話してくれへん?」 何も言い返せない二人。宗介は少し考えた後どうしようもないと判断し、事情を話し始めた。 「俺達は、ミスリルという紛争根絶を目的とした組織の兵士だ…」 機密には触れない程度の情報、そしてここに来たおおよその経緯を話す。 「その光に飲み込まれた後、気付いたらここにいた。間の事は何も覚えていない。」 「…成程な。大体の事情は分かったわ。」 話を聞き終えたはやてはそう言った。 「まぁ今の話聞いたんは局員としての仕事の一環や。必要な所以外では話さんから安心してや。」 「助かるぜ、はやてちゃん。」 口元を綻ばせてクルツが言った。 「で、もう一つだけ聞きたい事があるんや。こっちは私の要望が主なんやけどな。」 「何だ?言ってみろ。」 「うん。君達二人、魔道士になる気はあらへん…?」 続く 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2709.html
床に転がした電話機が鳴っている。 丁度コートに手を掛けたところだったダンテは、器用に受話器を蹴り上げると、そのまま空中でキャッチして耳に押し当てた。 「デビル・メイ・クライだ。生憎だが、出張の為しばらく休みだぜ。期限は未定だ、よろしく」 受話器から響く怒声とも懇願ともつかない雑音を聞き流しながら、無造作に放り投げる。 キンッと音を立てて、輪投げよろしく電話機の上に乗っかった。 最初から興味など無かったダンテは、それを尻目にコートを羽織る。 久方ぶりに袖を通した、ダンテの性格を体現する真紅の服装に自然と笑みが浮かんだ。やはり、この格好が一番しっくりくる。 「そう言うワケだ、レナード。後は頼んだぜ」 「……何日も事務所空けっ放しで、俺に連絡も寄越さないでおきながら、いきなり帰って来てそれかよ」 そこだけ新品同様になっている入り口のドアの傍に立っていたレナードは、弱弱しく悪態を吐いた。 もはや、この男に何を言っても無駄だと悟っている。 大仕事をこなし、報酬も入って万々歳という直後にそのまま消息を晦ましたダンテをレナードが今の今まで気に掛けていたのは、もちろん安否を気遣う理由ではない。 便利屋としても裏の世界に名の知れ渡っている<Devil May Cry>に、唯一まともに仕事を斡旋できるのがレナードの強みの一つだからだ。 ダンテが帰って来ていきなり無期限の休業宣言をすれば、一番ワリを食うのは誰か言うまでも無い。 「ここ最近、キナ臭くなってそこら中の組織が殺気立ってるんだ。腕っ節の立つお前さんだって引く手数多さ。 ……それを、いきなり全部キャンセルはねぇだろ!? 頼むよ、話もつかねえとなったら俺が酢豚にされちまう!」 「キャンセル? 話も聞いてねえよ。人の都合も考えずに勝手に請け負うからだ。せいぜい料理されないようにダイエットに励みな」 「ひ、人事だと思ってよ……!」 レナードの悲壮な訴えなど歯牙にもかけない。 これが無力な一般人の叫びなら良心が痛まないわけでもないが、相手は小ずるい腹黒の小悪党だ。自業自得というものだろう。 それでもレナードは得意の口八丁で何とかダンテの考えを改めさせようと食い縋る。 「ダンテ! 金払いのいい依頼かもしれないけどな、さっきも言ったとおり最近何処も殺気立ってるんだ。 そんな時期に、管理局からの長期の仕事なんて引き受けてみろ。どの組織からも睨まれるぜ? 便利屋としての信頼もガタ落ちだ、公的組織に尻尾振る飼い犬だってな!」 「言わせたい奴には言わせとけよ。外に知り合いを待たせてあるんだから、足引っ張るな。もう行くぜ」 「外? あのスゲエ車に乗った綺麗な金髪のオンナか?」 「ああ、美人だろ?」 「お前さんの好きそうなタイプだよ。アンタの事務所の前じゃなかったら、強盗と好きモノの変態が群がってくるだろうぜ……」 「あんないい女なら尻尾を振ってもいい、そうだろ?」 ダンテは舌を出して『ハッハッハ』と犬の真似をしながらおどけて見せた。 二本の<得物>を仕舞ったギターケースを引っ掴むと、縋るレナードへウィンク一つ寄越して事務所のドアに手を掛ける。 「それじゃあな。俺のいない間、事務所の管理は頼むぜ」 「ダンテ! いつまで待ちゃいんだ!? 帰って来るんだろ!?」 答えず、気楽に手を振すると、ダンテは事務所から出て行った。 閉まったドア越しに『ちくしょー、この悪魔!』という嘆きが聞こえるのを耳に入れず、ダンテは意気揚々と手持ち無沙汰に待つフェイトの元へと向かった。 「待たせたな」 「私物は、それだけでいいんですか?」 「あまり物は持ち歩かない主義でね」 後部座席にケースを放り込み、自分は助手席へと腰を降ろす。 ここへの道すがらと同じ、勝手知ったるリアシートを後ろへ押し倒すと、ダッシュボードの上に足を投げ出した。 他人の車でここまでリラックスできるダンテの図太さに呆れながら、言っても無駄だと悟っているフェイトはため息一つで済ませ、車を走らせる。 死にかけた街の景色が前から後ろへと流れていく。時折、その景色の中に人の姿も見かけた。 なけなしの現金を抱えてベンチに横になった男。派手に着飾った娼婦。そして、路地裏の影で寄り添うように座り込んだ子供達。 それらを見る度に、フェイトはやるせない気分になっていた。 「華やかなりし街の影ってところか」 フェイトの心の内を代弁するように、ダンテが呟いた。 繁栄の在る場所には格差もまた存在する。完全な平等などというものは、文明の停滞の下でしかありえないのだから。それはこの世界においても例外ではない。 多くの次元世界との交流が複雑に絡み合うミッドチルダにおいて、訪れる人はその種と同じだけ差が存在するのだ。 「首都に住んでいると忘れてしまいがちな……これが現実だと、分かってはいるんですけれど」 「気にするな。ここも、そう悪いもんじゃない。 ――ところで、コイツか? <悪魔>と繋がりがある次元犯罪者ってのは」 一介の執務官と便利屋が世情を嘆いても仕方ないとばかりに、ダンテは話を切り替え、情報の表示された電子ボードを睨み付けた。 ダンテほど物事を割り切れないフェイトだったが、質問には頷いて答える。 「ジェイル=スカリエッティ。私が追っている、大物の犯罪者です。各所のレリック強奪に関わるガジェットは彼の差し金、最近になって<悪魔>との繋がりも濃厚になりました」 「こいつが俺の事務所を吹き飛ばしてくれた張本人ってワケだ」 「奴と会話を交わしたんですよね。本人と接触したのは、多分ダンテさんが初めてです」 「ベラベラとよく喋る、胡散臭い奴だったよ。俺は自分よりお喋りな奴は嫌いなんだ」 不機嫌そうに鼻を鳴らす。 フェイトは肩を竦めた。ダンテの証言から、スカリエッティの人物像を少しでも把握しようと思ったが、この様子ではあまり積極的に語ってはくれないだろう。 だが、打算的ではあるが共通の敵が出来ることは、共に戦う上で都合がいい。 「情報は少ないですが、スカリエッティに関しては帰ってからダンテさんにも詳しくお話します。 それで……今のところ奴の協力者として可能性の高い<バージル>という男に関してなんですけど……」 「まとめて一緒に話してやるよ」 <バージル>という名前が出た途端、目に見えて変わったダンテの雰囲気にフェイトは口を噤んだ。 ただ敵意や怒りを抱くだけではない、悲しみと懐かしさも入り交ざった複雑な表情を浮かべている。 自分とスカリエッティがそうであるように、ダンテとバージルには浅からぬ因縁があるらしい。 彼の敵であるならば、やはり自分にとっても敵となる。 得体の知れぬ<悪魔>という存在を交え、複雑に、そして肥大化していく暗黒の気配を感じながら、フェイトは車を進める先に敵の姿を幻視した。 これまで漠然としていた、自分たちが真に敵対すべき者達の姿が徐々に形となり始めている。 <奴ら>はこちらの思惑の届かぬ場所で、一体何を企み、何を成そうとしているのか――。 エンジンの僅かな振動だけが響く車内、お互いに似た懸念を抱きながらダンテとフェイトは沈黙を続けていた。 魔法少女リリカルなのはStylish 第十八話『Dear My Family』 「――そこまで! <インターセプトトレーニング>終了!」 ティアナが最後の誘導弾を撃ち落した瞬間、なのはが訓練の終了を告げた。 絶え間無い疲労の蓄積から解放された安堵に、ティアナは大きく息を吐く。張り詰めた神経が解れていく感覚と同時に脱力感が全身を重石のように襲った。 座り込みたい、が。堪える。 デバイスをホルダーに差し込み、直立不動で次の指示を待つティアナの意地とも言える気丈な姿を見て、なのはは微笑した。 「今日の個人教導はこれにて終了。休め」 「はい!」 ようやくティアナの体から強張りが抜ける。 愚直なまでに公私の区別を付けたがるティアナの生真面目さも、もうなのはには慣れ親しんだものだった。今はそれすら好ましく思える。 少し気の緩んだティアナのぼうっとした視線とぶつかり、二人はしばし見詰め合って、湧き上がった奇妙な可笑しさに一緒に小さく笑った。 教導官と訓練生としての時間は終わる。ここからは少しだけプライベートだ。 「完璧だったね。次からはワンステップ先に進めるよ、ティア」 「ありがとうございます、なのはさん」 それはつまり、こういう呼び方をするようになった二人の新しい関係だった。 「誘導弾の操作も大分精度が上がってきたね。小手先の技だけど、二種類の射撃があるだけで攻撃の幅は驚くほど広がるよ」 「最近、直線射撃に偏ってる自覚はしてましたから。なのはさんのお墨付きなら、矯正は成功ですね」 「ティアならあまり細かく言わなくても自分で使いどころ考えられるよねぇ……うーん、なんか物足りないなぁ」 「いや、教導官の方が訓練に疑問持ってどうするんですか?」 「だって、あの日から意気込んで色々訓練考えてるのに、ティアってば結構難なくこなしちゃうんだもん」 以前の自分と立場が入れ替わったかのようななのはの言動に、ティアナは苦笑した。 あの模擬戦を経て、心を開いた夜――あれからティアナの日常は少し変化し、自身の中では大きく何かが変わった。 なのはは基本を教えながらも教導にティアナの要望を取り込むようになり、ティアナはそれによって過酷になった訓練を一皮向けた精神力によってこなすようになった。 もう焦りは無い。戦いへの苛烈な意志はそのままに、周囲を見渡す冷静さと余裕を持つようになったのだ。 なのはの望む、新人メンバー達のリーダー格という器になりつつあるティアナにとって、残された問題は彼女自身の戦闘力の向上だった。 「――やっぱり、一撃の威力が欲しいと思うんですよね」 訓練やチームワークについて以前より遥かに気安くなった雰囲気でアレコレと交わす中、自身の話へと移って、ティアナはおもむろに告げた。 「あたしの弱点は、ここぞという時の切り札が無いことだと思うんです」 ティアナは自己分析を冷静に口にした。 なのはは頷く。 「そうだね、射撃型はどうしても魔力容量と出力が攻撃力に直結する。 魔力弾を量はそのままに、圧縮して濃度を上げるっていうティアの方法は、上手くその弱点をフォローしてると思う。でも、限界はある」 「一発で、大ダメージを与えられる攻撃方法が欲しい。<ファントム・ブレイザー>じゃ駄目なんです」 「確かにあの魔法は、正直ティア向いてないかな。 威力と範囲はカバー出来るけど、消耗率が高すぎるよ。魔力量を効率で補ってるティアに適したものじゃない」 「どちらかというと、なのはさんのバスターと同じ系統の魔法ですからね」 近くの木の幹に腰掛け、談笑する様は降り注ぐ木漏れ日も手伝ってひどく穏やかな雰囲気を漂わせていたが、交わされる言葉は真剣そのものだった。 「……やっぱり、タイプの違うわたしじゃアドバイスは難しいのかなぁ。わたしの考えることはティアも既に考えてるみたいだし」 「存在そのものが必殺のなのはさんに、必殺技のコツを尋ねても難しいですよね」 「何その物騒な評価! ティアまでそんなこと言うの!?」 時折、そんな場を和ます冗談も交えながら語り合う。 少し前までは考えられない、なのはとティアナのやりとりだった。 「参考になるか分からないけど、わたしの場合は鍛える時短所を補うより長所を伸ばす方法を取ったよ。 例えば、当時必殺技だった放出系魔法を改良しようと思った時、発射シークエンスを変更する方法を取ったんだ。まだ未熟だったからチャージ時間が長くて高速戦では使えなくて――」 「発射の高速化――じゃないですね。なのはさんなら、チャージタイム増やして威力を上げたんじゃないですか?」 「当たり! 使いどころはとことん選ぶけど、信頼出来る切り札になったよ」 「その見かけによらない博打好きな人柄に惚れます」 「にゃにゃ!?」 真顔で告げるティアナに対して、なのはは奇声を上げながら頬を赤くした。 もちろん、当人は誤解を恐れない本音を告げただけである。なのはの性格に、どこかダンテと共通する部分を感じ取ったのだった。 なのはは気を取り直すように咳払い一つすると、改めて自分の助言をティアナに告げた。 「まあ、要するに。持ち味を活かす、っていうのが重要だと思うの」 「持ち味……」 「例えば、ティアの場合はわたしにも真似出来ない命中精度とか魔力の圧縮率。その辺にパワーアップの鍵があるんじゃないかな? 新しい魔法を覚えるより、ずっと近道だと思うよ」 「……なるほど」 ティアナは神妙な顔で頷いたが、対するなのはは自分自身の助言の余りの曖昧さに少し落ち込んでいた。 「ごめん。あんまり参考にならないよね……」 「いえ、そんなことないですよ」 首を振るティアナの眼に、誤魔化しや気遣いは無い。本心だった。 「なのはさんのおかげで、ちょっと試してみたいことを思いつきました。ありがとうございます」 何かを得た興奮と決意が、自然と力強い笑みを形作っていた。 「ははっ、どういたしまして」 そんなティアナの様子を頼もしいと思うと同時に、なのはは更に大きく落ち込んでしまう。 「……なんか、やっぱりティア自分一人で解決しちゃったみたいだね……」 出来が良すぎるというのも困りもの。 あの夜には、目の前の少女を鍛える為に一大決心したものだが、蓋を開ければ『アレ、わたし実は要らない子なの?』と思わずにはいられない現状だった。 「あ、いや。なのはさんのおかげですよ、閃いたの! ホント! ありがとうございます!」 「いいよぉ、そんな気を使わなくて……。どうせ、わたしに教導なんて向いてないの。部下の気持ちも分からない独りよがりな女なの……」 「なんでそんなに打たれ弱くなってるんですか!? なのなの……いや、なよなよしないで普段通りに戻ってくださいよ!」 模擬戦の時のように眼が死んでるなのはをティアナが慌てて慰めていた。 もちろん、半分はじゃれ合っているようなものである。互いの弱さを笑って話せる程度には、二人は分かり合っていた。 雨降って地固まる、とは正にこの事。 ――そして、もう一つ固めるべき地があることをティアナは理解していた。 「おーい、なのは。こっちの訓練も終わったぞ」 駆け寄ってくるのは同じく個人教導を行っていたヴィータとスバル。 例の如くスバルは、時にヴィータにぶっ飛ばされ、時に自ら転がり、痣と土汚れだらけだった。 「お疲れ様。スバルの調子はどう?」 「ギリギリ合格点ってところか。馬力は上がってるけど、前に指摘した部分を十分に改善できてねーな。長所を伸ばしすぎだ」 「ハハ……すみません」 一見するとヴィータとスバルの二人は同じ突撃思考タイプに見えるが、そこは年の功。 猪突猛進気味なスバルの戦闘方法に生じる粗をヴィータは前々から懸念していた。しかし、矯正の効果はあまり見込めていない。 「索敵とか位置選び、細かい点を相棒のティアナに任せすぎてたな。一人になると、その辺が隙になっちまうぞ」 「……すみません」 ヴィータの的確な指摘に、スバルは気まずげに俯いた。 チラリ、とティアナの方を一瞥し、それから何かを堪えるように口を噤んでまた俯く。 普段の快活なスバルらしくない仕草だった。 その分かりやすい態度を、ティアナはもちろんなのは達が気付かないはずはない。 あの日――模擬戦以来、それはどうしようもないことなのかもしれないが、スバルとティアナの間に小さな溝が出来てしまっているのだった。 日常の中で、二人は以前と同じように寝食を共にし、会話もしているが、やはり以前と同じように心を通わせることは出来なくなってしまっていた。 「……まあまあ、ヴィータちゃん。とりあえず、訓練はこれで終了。 スバル達はシャワーを浴びて着替えたら、オフィスに集合してね。はやて部隊長から何か発表があるらしいよ」 重苦しい程ではないが、どうにも形容しづらい微妙な二人の雰囲気を払拭するようになのはが告げた。 それじゃあ、と。これまでなら嬉々としてティアナを伴っていた筈のスバルが一人で隊舎へ向かう背を眺め、なのはは無言を貫くティアナに小声で問い掛けた。 「やっぱり、スバルとは仲直り出来てない?」 「寝る前とか、話すタイミングを計ってるんですけど……なんか、普段通りに返されると曖昧になっちゃって……」 「スバルなりの気遣いなんだろね『気にしてない』っていう。実際は、気にしちゃってるみたいだけど」 「アレは、完全にあたしの方に非がありますから。負い目の分、強く切り出せないんです」 「きっかけがあれば、だね?」 「ありますか?」 「任せなさい」 ティアナにスバルへの謝罪と仲直りの意思があることを確認すると、なのはは満足げに笑ってドンッと胸を叩いて見せた。 その仕草に小さく笑みを浮かべ、感謝の意思を込めて一礼すると、ティアナもまたスバルの後を追うように隊舎へと向かった。 なのははその背中をいつまでも見守っていた。 懸念は残っている。しかし、不安はない。 ティアナは、きっとスバルとの絆を取り戻すだろう。あるいはそれ以上のものを。 好意の反対は無関心だと言う。 模擬戦で見せたスバルへの苛烈な反発がティアナの偽らざる感情ならば、それが一端に過ぎないスバルを想う心もまた本物なのだ。 良くも悪くも、あの頑なな少女がスバルという存在を自らの内まで踏み込ませ、心を許しているという事実が、なのはには微笑ましく映るのだった。 「ホント、不器用なんだから……」 「おめーが言えたことじゃねーだろ」 年上ぶって苦笑してみせるなのはの後頭部を、ヴィータがグラーフアイゼンでコツンと叩いた。 オフィスには制服に着替えたフォワードのメンバー達とシャマルやシャリオなどの手の空いた一部の隊員だけが集められていた。 新人達もすっかり板についた一糸乱れぬ整列を、向かい合う形ではやて達隊長陣が眺めている。 その上司達の中に二人――六課では本来在り得ぬはずの姿があった。 「――もう聞き及んでると思うけど、機動六課に外部協力者を迎え入れることになった」 自分の傍らに立つ二人の人物へ隊員達の視線がチラチラと向けられるのを感じながら、はやてが厳かに告げた。 「いずれも任務の際に遭遇した<アンノウン>に対抗する為、特別措置として一時的に六課へ出頭することになった人物や。 正式なメンバーではない為、いろいろと制約と自由の違いはあるが、私らの手助けをしてくれる力強い味方である事は間違いない。皆、仲良くするよーに」 最後はちょっと茶化すように告げる。 場の空気が和んだところで、はやてが促すまま二人が一歩前に出た。 「まず、皆顔くらいは会わせてるやろ。数日前から六課にいて、今日正式に契約を交わしたダンテさんや」 「ダンテだ。ま、よろしく頼むぜ」 以前とは違う借り物の制服姿ではない、真紅のコートに身を包んだ彼本来のスタイルでダンテは軽く挨拶をして見せた。ウィンクもおまけに付ける。 既にほぼ全てのメンバーと交流のある彼の参入は好意的に受け入れられた。スバルが軽く手を振るのを、隣のティアナが諌めるのが見えて苦笑する。 そして、もう一人。こちらは新人達には全く見覚えの無い男に紹介が移った。 「こちらは本局から来ていただいた、無限書庫のユーノ=スクライア司書長や。 私よりも偉いので、言うまでも無いけど失礼のないように。気さくな人やけど、高町隊長とプライベートな関係やから玉の輿狙う娘は命賭けてなー」 「はやて……」 真面目な顔で冗談とも本気とも取れないことを告げるはやての傍らで、ユーノとなのはが引き攣った笑みを浮かべていた。 一方で、この意外な人物の登場に初耳のメンバーの中ではどよめきが起こっている。 本局勤務の重役が、身一つでやって来たのだ。個人的なコネや要請でどうにか出来る人物ではない。 ティアナや一部の聡い者達が疑念を抱く中、ユーノは咳払い一つして、人当たりのいい笑みを浮かべた。 「ユーノ=スクライアです。未だに情報の少ない<アンノウン>に関しての分析などでサポートする任に就きました。所属としてはロングアーチに位置します。どうぞ、宜しく」 簡単な紹介が終わると、堅苦しい場はそこでお開きとなった。 レクリエーションのような軽い雰囲気の中、オフィスのメンバーは二つに分かれる。 隊長陣を中心としてユーノの下に集まる者と、既に大半のメンバーと親しくなっているダンテのグループだ。 「これからお願いします! ダンテさん!」 「空中戦のログ見せてもらいました! スゴイです! あの、剣も使うって本当ですか? 良かったらボクと模擬戦……」 「エリオ君、いきなりそんなこと言ってもダンテさん困っちゃうよ。あの、これからよろしくお願いします」 『キュクルー』 抱きつかんばかりに駆け寄ってきたのは新人メンバーだった。 若さゆえの素直な性分か、真っ直ぐな好意を向けてくる三人にダンテはらしくもなく尻込みしていた。 スバルはもちろん、控え目ながらも初対面とは変わって警戒心の無いキャロの笑み。エリオに至ってはダンテに向ける視線がテレビの中の有名人に向けるそれである。 荒事ばかりの人生のせいか、尊敬と敬意を持たれるのはどうにも慣れていない。警戒混じりのフリードの素っ気無さくらいで丁度いいのだ。 「ハハッ、ここまで歓迎されるとこっちが度肝を抜かれちまうな。まあ、猫の手だとでも思って気楽に接してくれ」 何とも言いがたいむず痒さを苦笑に変えて、ダンテは言った。 そして、まるで流れ作業のように次々と見知った顔が前に現れ、言葉を交わしていく。 「ダンテさんの剣はデバイスと一緒に預かっておきます。メンテナンスもバッチリ任せてください!」 「頼もしいな。ティアがいなかったから、デバイスの方はしばらく触ってないんだ」 「ティアナのクロスミラージュも相当ですけど、ダンテさんは更に過激な扱いしてますね。二人してデバイス泣かせですよ?」 「デリケートな扱いは苦手でね」 「でしょうね。……剣の方ですけど、すこーし解析させてもらってもいいですか?」 「……分解はしないでくれよ」 シャリオの言葉に苦笑いを返し、 「六課に歓迎しますぜ、旦那」 「ああ、まったくいい所だ。美女に囲まれた理想的な職場だな。これで花の首飾りとキスで歓迎されれば文句無しだ」 「そいつはフェイト隊長にねだってください。ハグなら、俺がなんとか」 「男と抱き合う趣味は無いぜ」 「俺もです」 数少ない同性同士、妙に気心の知れた笑みを浮かべ合いながらヴァイスと軽く拳をぶつけ合う。 そうして一通りの挨拶を終えると、ダンテはあからさまに『今気付いた』と言わんばかりに驚きの表情を浮かべて、離れた場所で佇む最後の一人を見つめた。 「Hey! こいつは驚いたな、俺の知り合いにソックリだ。つい最近振られたばかりの相手でね」 「うっさい! ……あの時は、悪かったわよ」 3年ぶりの再会を数日前に自ら台無しにしてしまったティアナは、ダンテのいつものジョークに対して少しばかり気まずそうに返した。 あの時は、色々問題を抱えていて素直に再会を喜べなかった。 現金な話だが、その問題が解決した今、誰よりも彼に話を聞いてもらいたい。そんな想いをおくびにも出さず、腕を組んで不機嫌な表情を作る。 もちろん、その全ての虚勢を見透かしたダンテは、笑いながら静かにティアナの下へと歩み寄った。 「あの時は傷付いたな。こう見えて、中身は結構ナイーブなんだ」 「……ごめん」 「冗談さ」 「分かってる。でも、ごめん。アンタから……逃げたわ」 最悪のタイミングでの再会だった。 彼から教わった信念を何一つ貫き通せず、敗北し、惨めな自分の姿を見られたくなかった。精一杯の虚勢で拒絶し、そんな行動の中で自分は一瞬彼に縋ってしまおうかとも考えたのだ。 情けなさと悔しさ、自己嫌悪が蘇って、それを堪える為に唇を噛み締める。 「そういう所は相変わらず不器用な奴だな」 そんな変わらない性格を、ダンテは苦笑して受け入れた。 「でも変わったよ、お前。3年前とは見違えた」 「……本当?」 「スタイルの話じゃないぜ?」 「バカ。真面目に言ってよ」 「こいつは失礼。雰囲気というか、顔つきがな……ティーダに似てきた」 ティアナは驚いたようにダンテを見上げた。穏やかな微笑みが浮かんでいる。 彼が時折見せる、挑発するものでも茶化すものでもない――それこそどこか兄の面影を感じる、包み込むような優しい笑顔だった。家族に向ける顔だった。 「あたしが、兄さんに……?」 自己嫌悪など吹っ飛んで、ティアナはダンテの発言の真意を確かめるように尋ねた。 途端、真摯で真っ直ぐだった瞳が悪戯っぽく歪む。 「ああ。アイツ、女顔だったからな」 「もうっ!」 それがダンテなりの照れ隠しだと長年の付き合いで分かっていたが、上手くかわせるほど老練もしていないティアナは頬を膨らませて胸板を殴りつけた。 怒り任せにしては随分と軽い音が響き、そのまま二人の間に沈黙が走る。 「……ありがとう」 「ああ――会いたかったか?」 「たぶんね」 「釣れないな」 そして、二人はごく自然に抱き合った。 異性としてのそれではなく、家族として。激しくは無く、ただ静かに。 3年という月日で離れた距離をたったそれだけで埋め合える、酷く穏やかな抱擁だった。 「こういうの、何て言うんだったか……」 「感動の再会、でしょ?」 温もりを感じ、軽口を返して、ティアナはその時ようやくダンテとの再会を果たせたような気がした。 しばらく動かずにその体勢のままでいる。 心地良かったが、心の片隅で違和感を感じていた。 ――はて、何か忘れちゃいまいか? 「…………グスッ。よかったね、ティア」 聞き慣れた相棒の声と鼻を啜る音を聞いて、ティアナは瞬時にダンテの懐から飛び退った。 我に返ったティアナは自分の置かれていた状況を思い出し、戦慄と共に周囲を見回す。 返って来たのは映画のクライマックスを見守る観客のような生暖かい幾つもの視線だった。具体的にはニヤニヤしていた。 当のスバルは涙と鼻水を垂らしながらも笑みを浮かべるという感激の極みといった表情で、その傍らではエリオとキャロがどこか羨ましそうにこちらを見ている。 親愛に満ちた二人の抱擁は、家族の愛に飢えた子供達を大いに刺激したらしい。 「な、な、な……っ!?」 ドモるどころか言葉にも出来ず、壊れたように繰り返すティアナが顔を真っ赤にしながらダンテの方を見ると、こちらは相変わらず飄々とした態度で肩を竦めていた。 全て分かっていて続けていたらしい。 怒りと羞恥で脳みそが破裂しそうな感覚を味わいながら、この混沌とした心境をどう表せばいいのかも分からず、更に混乱する。 そんなパニック状態のティアナにスバルがトドメを刺した。 「記念に一枚撮っておこうか?」 理性の糸をぷっつんと切ってしまったティアナは、奇声を上げながらスバルに殴りかかった。 賑やかなダンテを中心とした集団から離れて、ユーノとそれを囲う旧知の者達がそれを見守っていた。 「大人気だね」 「絵になるからなぁ、ちょっとしたアイドルや。士気の面でもええ効果やね」 苦笑するユーノにはやてが相槌を打った。 ダンテとユーノは同じ立場のはずだが、こちらにははやて達三人の隊長陣とヴォルケンリッターが静かに寄り添うだけだ。 人望の差――などと卑屈に考えることはないが、自分の役職の重さが肩に乗っかっているような気がして、ユーノは人知れずため息を吐く。 こうして10年来の友人と再会しても、子供の頃のようにはいられない。 なのはとオークションで再会して以来、時折そんな切なさを感じることがあるのだった。 「でも、驚いたよ。ユーノ君が来るなんて、わたしギリギリまで知らなかったんだから」 あえて黙っていたのであろうはやてに対して少し怒るように、なのはが言った。 フェイトも同感だった。 「理由はともかく、よく無限書庫を離れられたね?」 「書庫の管理体制には以前から改善案が推されててね。今回は、その新しいシフト設置に乗じて暇を貰ったワケ。定期的な連絡は必要だけどね」 「それにな、ユーノ君が六課に来たのは呼んだからやない。本人からの要望と本局の許可があったからや」 その予想外の答えに、全員がユーノの顔を見つめた。 ユーノが<アンノウン>の情報解析に必要な人材だと判断する根拠も分かっていないのに、それを本人が志願したというのだから当然だった。 奴ら――<悪魔>との遭遇は、ユーノにとってあのホテルでの一件が初めてのはずだ。奴らを一体何時知り得たというのか? 「――詳しい内容は、後で改めて話すよ。あのダンテさんも交えて」 皆の疑念に満ちた視線を受け止め、ユーノは小さく頷いた。 「今、言えることは……僕はずっと前から奴らを知っていた。もちろん、知っているだけで、その存在を信じるようになったのはつい最近だけどね」 「どういう、ことなの?」 「何もかも不確定だけど……奴らの記録自体は実ははるか昔からあったんだ。ただそれを誰も現実として受け止めなかっただけでね。 僕はあのオークションの日まで、個人的にその記録を調べていた。神話や物語を読むような気分で。だけど、あの日確信した。 <悪魔>は、実在する」 狂人の戯言とも取れるユーノの発言を、その場の全員が全く疑いなく受け止めていた。改めて突きつけられる現実への戦慄と共に。 これまで遭遇し、それでも尚別のモノへと結び付けようとしていた逃避にも似た認識を、ユーノの言葉がハッキリと切り捨ててしまった。 「ハッキリと確証は持てないし、まだまだ分からないことは残ってる。だけど、あのオークションの事件を切欠に僕なりに色々調べてみたんだ」 もはや周囲の誰もが沈黙し、ユーノを見つめていた。 ダンテ達の喧騒が酷く遠くに思える。 「全て説明するには時間が掛かる。だから結論だけ告げておくよ――この事件の黒幕の一人は、おそらくウロボロス社のアリウスだ」 ユーノの唐突な発言に呆気に取られるしかないはやて達を尻目に、彼は捲くし立てるように続けた。 「そして敵の目的はこちらの世界と悪魔の存在する世界――<魔界>を繋げることだよ」 確証は無く、ただ確信だけを胸に告げるユーノの脳裏には、あのホテルでの一件以来何度も思い出す本の一文が繰り返し浮かんでいた。 されど魔に魅入られし人は絶えず。 彼らは魔を崇め魔の力を得んと欲し、大いなる塔を建立す。 その塔、魔の物の国と人の国とを結び 魔に魅入られし者は魔に昇らんと塔を登れり。 そはまさに悪業なり。 そはまさに<悪業>なり――。 彼は夢を見ていたらしい。 その夢の中で彼は、初めて手にした剣で迫り来る黒い敵を延々斬り続けていたのだが、その黒い敵の姿形は、時として醜い肉塊のような化け物であったり、亡者の如き骸骨の群れであったり、あるいは彼に生き写しの弟の姿であったりした。 最後に切り裂いた影の姿が、ぼんやりと記憶に残る母親の顔をしていたような気がしていたが、そこで我に返った彼の立つ場所は、いつの間にか巨大な塔の頂上に変わり、瞬きする間にはこの世ならざる魔の河が流れる異空間へと行き着いていた。 取り返しのつかないミスを犯したことに気付いた彼は激しい怒りと喪失感に叫び声を上げるのだが、その時にはまたも場所は移り変わり、其処は無数の墓石が並ぶ墓地となっていた。 人間の名前、悪魔の名前――墓石に刻まれた文字はその全てが彼の知る者達の名前だったが、最後の墓石に刻まれた名前が自分自身のものであると気付いた途端に目が覚めるのだ。 誰が、何の為にかは分からない。何度も繰り返される問いかけを耳にして。 《――更なる恐怖を、望むや否や?》 深夜。 主が出て行って間もないその事務所には、早くも灯りが戻っていた。 看板が<Devil May Cry>の文字をネオンの輝きで描く。その光を見るだけで、暗闇に潜む者たちは背を向けて立ち去った。 悪魔さえ泣き出す男の所在を、その輝きは示しているのだから。 「デビル……メイ……クライ」 光と静寂の満たす事務所の中で、男は佇んでいた。 ドアだけが新調され、荒れ果てた内部を一通り見回り、自らの目的が達せられないことを悟ると、彼はただ静かに座る者の居ないデスクを眺めている。 目を細め、耳を澄ませて、つい先日までここで生活していた者の残滓を手繰るように。 「――ダ、ダンテェッ!?」 唐突に、飛び込んできた騒音によって静寂は破られた。 不快感を欠片も表に出さず、ただ淡々と振り返った男が見た者は汗だくになって駆け込んで来たレナードの肥満体だった。 滅多にしない運動によるものだけではない汗も、そこには混じっている。 追い詰められた必死の表情が、事務所の中に居た男の姿を捉えた途端希望に輝いた。 「な、なんだよ……戻ってきてたのかよ、ダンテ!? 助かったぜ!」 「……」 縋り付くレナードを無感情に見下ろし、男は近づいてくる複数の人の気配を感じて視線を入り口に戻した。 粗野な性格をそのまま格好にも表した、明らかに堅気ではない男が数人乗り込んでくる。 いずれも良く言えば屈強、悪く言えばチンピラのような風情の者達ばかりであった。 「レナァァードォッ! 前金返すか、命で支払うか!? 選べって言ってんだろぉがっ!」 「ヒィッ、だからもう全部使っちまったって言っただろぉ!?」 「仕事も果たさねぇで、フザケタこと抜かしてんじゃねえ! テメェ、あのダンテに渡りを付けられるって売り文句はどうしたい!?」 リーダー格らしい男の怒声の中に含まれた言葉に対して、男はようやく反応らしい反応を見せた。 「……ダンテ」 呟き、鉄のように動かなかった表情が僅かに震える。 「あん? なんだぁ、このアンチャンは?」 「すっげ、シャレた格好してるなぁ。目立つ目立つ」 「お~、見ろよこの剣」 「ヘンな剣だな?」 「オレ、知ってるぜ! これ日本刀だろ?」 チンピラ達の顔に悪意と愉悦が滲み、はやし立てるように男を取り囲んだ。 男の整った顔立ちやスラムには見られない小奇麗な格好に対する暗い妬みと、ソレに対する暴力的な衝動が彼らを動かしていた。まるでそれが彼らという種の本能であるかのように。 しかし、周囲の有象無象に比べれば幾らか理性的なリーダー格の男は、値踏みするような視線を向けていた。 「……銀髪に奇妙な剣を持った男。オイ、アンタはまさか……」 「そ、そうだよ! このレナード様は請けた仕事はしっかり果たすぜ? こいつがダンテだ!」 男の背後で震えていたレナードは、ここぞとばかりに捲くし立てた。 管理局に向かったダンテが何故戻って来たのかは疑問だが、今はとにかく首の繋がった安堵感が勝っている。 先ほどまで殺気立っていたチンピラ達へ身代わりとなる生贄を捧げるように、レナードは男の背を押した。 「なるほど、アンタか。レナードの話じゃあ、しばらく依頼は受けないと言ったらしいな? だが、テメェの都合なんて関係ねぇ。いくら腕が立とうが所詮便利屋だ。オレ達のような組織の恩恵無しじゃ、ロクに生きていけねえことくらい分かるだろ? ん?」 「……」 脅すような視線と嫌らしい笑みを浮かべながら、自分こそ強者であると強調するように男の顔を覗きこむ。 しかし、そこに在ったのは全く変わらず貫き通された無表情だけであった。 「何、気取ってんだぁ!? 噂だけの優男がよぉ、こんなご大層なモンぶら下げやがって――」 目の前のリーダー格が理想としているらしい『静かなる威圧』が実効を示さず、怯えの欠片も見せない男の様子に業を煮やした仲間の一人がおもむろに手を伸ばした。 その手が、男の握る刀の柄に触れようとした瞬間――指が五本とも根元から落ちた。 「あれ?」 肉と骨が見える綺麗な五つの切断面を眺め、痛みよりもまず疑問を感じる。 その一言が彼の遺言だった。 斬り落とされた指と同じ末路を、彼の胴体と頭が辿った。 「え――」 仲間の体が一瞬で幾つものパーツに分かれ、床に転がる生々しい音と光景を現実として受け止め、男を囲っていたチンピラ達の何人かが間の抜けた声を出す。 「ひ――」 そして、それが悲鳴と怒号に変わる前に、全てが終わった。 今度は狙い済ましたように顔だけ。周囲のチンピラ達の首から上がスライサーに掛かったかのように輪切りにされ、驚くほど静かな出血と共に床に崩れ落ちた。 遅れて胴体の転がる音が響き、最後に小さくキンッという金属音が鳴る。 いつの間にか抜刀された、男の持つ刀が鍔を鳴らす音であった。 「……ひっ、ひぃぃぃぃッ!? ダンテェ、何やってんだよぉぉぉ!!?」 死体となった者達の代わりに背後で尻餅をついていたレナードが悲鳴を上げる。 ダンテ――そう呼ばれているはずの男は、その言葉に全く反応すら見せず、来た時と同じように淡々とした足取りで事務所のドアを潜った。 そして、チンピラ達の中で唯一生き残った――目の前の惨劇に、生きているという自身の幸運すら分からずただ呆然としていたリーダー格の男は、すぐ横を通り過ぎた<蒼い影>を見て我に返った。 「テ、テメェェーーーッ!!」 怒声というよりは悲鳴に近い叫び声を上げて、懐から取り出した武器を立ち去ろうとする男の背に向ける。 肩越しに振り返り、男はその武器の正体を把握した。 「魔導師か……」 震える腕で突きつけているのは片手杖型の汎用デバイスだった。 性能的には何の変哲もないが、正式な登録を抹消された違法品である。正確には元魔導師であり、今は犯罪者に身を落とした人間だった。 「そうだ! 言っとくがコイツの殺傷設定は……っ!」 言葉は、文字通り寸断された。 再びキンッという鍔鳴りが響く。誰も、男の抜刀の瞬間を見極めることなど出来なかった。 いつ抜かれたのかも分からない刀が鞘に戻った瞬間、超高速の太刀筋に時間が追いつく。 突きつけられたデバイスの先端に切れ込みが出来たかと思うと、そこから真っ直ぐな亀裂が走り、その先にある腕を伝って持ち主の体を真っ二つに斬り裂いた。 デバイスと人体を切断した斬撃はそのまま背後の事務所にまで到達してようやく止まる。入り口のドアが斬り崩され、その上にあるネオンの看板まで破壊した。 もはや人間技ではない。 全てを見ていたレナードは、言葉もなくただ恐怖に震え、漏らした小便で濡れた床にへたり込み続けるだけだった。 「あ、悪魔……っ」 奇しくも、ここを去るダンテに告げたものと同じ言葉が漏れる。 男は――少なくとも『ダンテと瓜二つの顔を持つ』蒼いコートの男は、惨劇の場と化した事務所からやはり淡々と歩き去って行った。 凄まじい斬撃によって半壊した<Devil May Cry>というネオンの看板が火花を散らして、まだ辛うじて瞬いている。 一部の光が消えたそこに残された文字は――<Devil>と、ただそれだけであった。 《――魔とは何か?》 誰が、何の為にかは分からない問いかけが何度も男の耳を打つ。 《鼠に鳥の気持ちが分かろうか? 人の子よ……貴様らは見上げる空を知るのみ。限られた幸運な存在……》 場所も時間も関係なく、ふと気付けば囁きかけてくるこの声は幻聴などではなく、あるいは男に残された人間としての部分の警告なのかもしれない。 《――無知とは祝福なり》 あるいは、その人間としての部分に気付いた悪魔達が呪いを掛けてでもいるのか。 だが、いずれも無意味なことだった。 男はもはや止まらない。 その淡々とした歩みのまま、暗闇を渡り歩き、人と悪魔の屍を残しながら、死の淵に向かって歩み寄っていく。 《この広大な世界。仰ぐしかない空の広さを知った瞬間……絶望のうちに貴様は死ぬだろう!》 「――空が青いことなど、世界を一周せずとも分かる」 そして地獄の底から響くようなその呪詛を男は――バージルは一刀の下に切り捨てた。 そっくりの顔。そっくりの力。 しかし、共に生まれた双子の歩む道は決定的に違えてしまった。 「いずれ成る。これが運命とでも言うならば……」 夜の静寂に包まれた街を、バージルは歩いていく。 おそらく同じようにここを歩いていただろう、自らの半身との再会を予感して。 「こういうのを、感動の再会と言うらしいな――ダンテ」 to be continued…> <悪魔狩人の武器博物館> 《剣》マーシレス 絡み合う蛇の装飾が施された細身の剣。 細身といっても異常な長さの刀身との比較であって、標準的な両刃剣と同じくらいの幅である。 入手経路は不明だが、アリウスの私物としてオークションに出品されていた。 同時に出品された人形が事件の切欠となっている為、この剣も管理局に押収され、現在分析中である。 その実体は、機能や魔力の付加されていない一般的な刀剣でありながら、リベリオンと同じくダンテの魔力に耐え得る魔剣。 それ自体に力は無く、長い年月で魔への耐性を付けたようだが詳しい経歴はやはり不明。 細身な為リベリオンより軽く、長い刀身も合わせてスピードとリーチに優れた武器である。代わりに威力は僅かに劣る。 だが、今のところ実戦での使用は確認されていない。 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/teamtaneage/pages/33.html
まるてん DiscordID まるてん#0562 サーバー初参加 2020/04/17(第四世代) サーバー内での呼称 まるてん YouTubeアカウント https //www.youtube.com/channel/UCjXAojRcU3ypuVCMnBJKWcg/videos Twitterアカウント https //twitter.com/maruten1420 東京都在住の大学生。 言わずと知れたRED ZONE界隈の古株で、ぴすぴぴん加入の際にはサーバー中をどよめかせた。現在ではすっかりぴすぴぴんの雰囲気に馴染んでおり、VCの参加頻度も高い。 サーバー内では珍しい画伯として、他メンバーの意味不明な発言をイラストで説明してくれる。 当サーバーにて行われるゲーム配信の切り抜き師をしている。 2020月4月25日にはいびきで歌うボーカロイド「鼾音カシ」を公開。第二回いびき合作の企画進行に大きく貢献した。 2022年1月4日にRED ZONE10選 - 2021を公開。「【合作単品】PROOF THAT TONY STARK HAS A HEART」のタイトルを「【ゐ合作単品】発狂」としてしまう誤植が大いに話題となった。参考:作品集
https://w.atwiki.jp/natural-prince/pages/214.html
BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【21】 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【21】 1-100 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【21】 101-200 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【21】 201-300 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【21】 301-400 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【21】 401-500 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【21】 501-600 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【21】 601-700 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【21】 701-800 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【21】 801-900 BL@てんねんおうじ 総合スレッド(同人)【21】 901-1000 入り口に戻る